頭蓋 cranium

頭蓋は15種23個の頭蓋骨 bones of cranium が,下顎骨と舌骨を除いて,不動性に連結されて構成されている。頭蓋は発生学的に神経頭蓋 neurocranium と内臓頭蓋 viscerocranium に大別できる。頭蓋底を除いて,頭蓋骨の大部分は膜性骨化をし,四肢骨の骨化様式(軟骨性骨化)とは異なる。
頭は古くから解剖学者の興味を集めてきた。文豪ゲーテは,動物がもっている顎間骨(切歯骨)がヒトにも存在することを初めて記載した。また彼は頭蓋は椎骨の変形したものであるというアイデアを出した(一部は正しい)。これが形態学(Morphologie, morphology)のはじまりである。人類学者は種々の計測を考案し,頭蓋示数(頭蓋最大幅/頭蓋最大長),顔面角(上顎の突出を示す)などによって 科学的に人種(?)の分類をしたこともある。
200〜300万年前の猿人の化石をみると,脳頭蓋容量は現代の類人猿と変っていなかったらしい。にもかからず,彼(女)は人類に分類される。それは,後頭顆の傾き,足の骨の形態などの種々の証拠から彼が直立二足歩行をしていたことが推測されているからである。すなわち,ヒトは脳が大きくなるよりも先に立ち上がったことによってヒトになったということである。
頭蓋を計測するときの基準位は耳眼水平面 eye-ear-plane, Frankfurt horizontal が一般に採用される。これは左右の外耳孔の最上縁の点と,左の眼窩の最下縁の点で決る面で,身長を計るときなどは,この面を床と平行にする(アゴを引くようにさせるとそのようになる)。
ヒトの頭蓋を他の哺乳類や霊長類のそれと比べてみよう。そして,ヒトたる所以を解剖学的に考えてみよう。
1. 脳の容器としての頭蓋
脳を収めるケースとしての骨格といちおう定義 しよう。これは,例えば比較解剖学者のいうbrain case,神経頭蓋とは必ずしも一致しないし,頭蓋骨によって構成される部とも一致しない。ここでは,耳眼水平面よりも上にある部を考えよう。そして,脳の容器の蓋(天井,頭蓋冠)と底(床,頭蓋底)について観察しよう。
1-1. 頭蓋冠 calvaria の外面
頭蓋冠 calvaria は皮骨格(外骨格)に属する。この骨は主として真皮のなかに発生する骨性構造物であって,あらかじめ軟骨として発生することはない(すなわち,膜性 骨)。脊椎動物の例ではこの皮骨格は,約 4.5億年前の無顎甲皮類の化石にみられる(鎧を身にまとったヤツメウナギを連想すればよいか?)。ヒトではこの頭蓋冠と鎖骨(の一部)にその名残がある わけだ。ついでながら,四肢の骨格は内骨格に分類される。
・矢状 sagittal suture (1-1)・冠状 coronal suture (1-2)・ ラムダ縫合 lambdoid suture (1-3)
・前頭縫合 frontal / metopic suture (2)
大多数の成人では癒合消失するので存在しない。
X線像で骨折線と間違うことのないよう。
・縫合骨 sutural bone(頭頂間骨 interparietal bone ,インカ骨 Inca bone)(3)
・前頭結節 frontal tuber (4-1)・頭頂結節 parietal tuber (4-2);何の名残か
・ブレグマ bregma ---- 大泉門 anterior fontanelle (5)
・ラムダ lmbda ---- 小泉門 posterior fontanelle (6)
・外後頭隆起 external occipital protuberance (7) ;生体で触れてみよ。
・最上項線 highest nuchal line (8-1)・上項線 superior nuchal line (8-2) ・下項線 inferior nuchal line (8-3)
それぞれ何が着くか
・鱗状縫合 squamous suture (9) ;他の縫合とどう違うか
・上側頭線 superior temporal line of parietal bone (10-1)・下側頭線 inferior temporal line of parietal bone (10-2);何が着くか
・外耳孔 external acoustic opening (11)---- 外耳道 external acoustic meatus;かたちは
・乳様突起 mastoid process (13)(54);何が着くか
生体で触れてみよ。
・下顎窩 mandibular fossa (14)(62);何がはまるか
1-2. 頭蓋冠の内面
・縫合 suture の癒合,消失状態を外面と内面で比べてみよ。
・上矢状洞溝 groove for superior sagittal sinus (16);何が,どこへ走るか
・クモ膜顆粒小窩 granular foveolae(17);何が入っているか
・頭頂孔 parietal foramen (18); 何が,どこへ抜けるか
・動脈溝 arterial grooves (19) ;何が走るか
どの穴から始まるか
1-3. 内頭蓋底 internal surface of cranial base
・前頭蓋窩 anterior cranial fossa (20-1)・中頭蓋窩 middle cranial fossa (20-2)・後頭蓋窩 posterior cranial fossa (20-3)
それぞれの窩の高さ,大きさは,脳の部分との対応は
1-3-1. 前頭蓋窩 anterior cranial fossa
・前頭骨 frontal bone (21-1) ,篩骨 ethmoidal bone (21-2),蝶形骨 sphenoidal bone (21-3) ;同定せよ。
・篩板 cribriform plate (22) ;何が,どこへ行くか
・鶏冠 crista galli (23);何が着くか
・指圧痕 impressions of cerebral gyri (23-1);何に対応するか
1-3-2. 中後頭蓋窩 middle cranial fossa
・蝶形骨 sphenoidal bone, 側頭骨 temporal bone を同定せよ。
・トルコ鞍 sella turcica (24),鞍背 dorsum sellae (25)
下垂体窩 hypophysial fossa (26); 大きさは
・視神経管 optic canal(27)(77);何が,どこへ行くか
・上眼窩裂 superior orbital fissure;何が,どこへ行くか
・正円孔 foramen rotundum (29); 何が通るか
頚動脈管 carotid canal (30)(58);何が,どのように通るか
・破裂孔 foramen lacerum (31)(61) <---- 大錐体神経溝 groove for greater petrosal nerve (32)
何が通るか
・小錐体神経溝 groove for lesser petrosal nerve
何が通るか
・卵円孔 foramen ovale of sphenoidal bone (34)(66)
何が通るか
・棘孔 foramen spinosum (35)(65) ;何が通り,どこへ続くか
・岩様部/錐体乳突部 petrous part(錐体 pyramis)(36) ;内部に何があるか
弓状隆起 arcuate eminence (37); 何に対応するか(重要!)
・三叉神経圧痕 trigeminal impression (38);何が乗るか
・内耳孔 internal acoustic opening (39) ----> 内耳道 internal acoustic meatus
何が通り,どこへ
・前庭小管外口 opening of vestibular canaliculus
何のための穴か
1-3-3. 後頭蓋窩 posterior cranial fossa
・後頭骨 occipital bone (42) ,蝶形骨 sphenoidal bone (43),側頭骨 temporal bone (44)を同定せよ
・斜台 clivus (45);何が乗るか
・大後頭孔 foramen magnum (46)
大きさは,かたちは,何が通るか
・舌下神経管 hypoglossal canal;何が通るか
・横洞溝 groove for transverse sinus (48) ----> S状洞溝 groove for sigmoid sinus (49)
どこから来るか
・頚静脈孔 jugular foramen (50)(59)
何が通るか
どの骨で構成されているか
1-4. 外頭蓋底 external surface of cranial base
・後頭骨 occipital bone , 側頭骨 temporal bone , 蝶形骨 sphenoidal bone を同定せよ。
・後頭顆 occipital condyle (52)---- 環椎後頭関節 atlanto-occipital joint
かたちと長軸の方向は
運動は
・顆管 condylar canal (53)
何が通るか
・乳様突起 mastoid process (54)(13);何が着くか
生体で触れてみよ。
後頭動脈溝 occipital groove (55);何が通るか
・茎状突起 styloid process (56) ;どの鰓弓に由来 何が着くか
・茎乳突孔 stylomastoid foramen (57)
何が,どこから出てくるか
・頚動脈管 carotid canal (58)(30);どこへ通ずるか
・頚静脈孔 jagular foramen (59)(50);不完全に二分,その意味は
・鼓室神経小管 tympanic canaliculus (60);何が,どこへ抜けるか
・破裂孔 foramen lacerum (61) (31);生体ではど うなっているか
・下顎窩 mandibular fossa (62)(14)---- 顎関節 temporomandibular joint
運動は
・錐体鼓室裂 petrotympanic fissure (64);何が,どこへ抜けるか
・棘孔 foramen spinosum (65) (35);何が通るか
・卵円孔 foramen ovale of sphenoidal bone (66)(34) ;何が通るか
・耳管溝 sulcus of auditory tube (67);どこから,どこへ続くか
・筋耳管管 musculotubal canal
何が通るか
2. 顔面の骨
おおよそ耳眼水平面より下の部分と考えよう。これは内臓頭蓋とも顔面骨で構成される部とも必ずしも一致しない。視覚器,嗅覚器,呼吸器,消化器をおさめている骨格と考えればよいか? ここに属する骨のいくつかと耳小骨は鰓弓に由来するものがある。発生学書で調べてみよ。
2-1. 眼窩 orbit
眼窩を構成する骨は紙のように薄いので,取扱には十分注意しよう!
眼窩 orbital cavity
前頭骨 frontal bone (68)
頬骨 zygomatic bone (69)
蝶形骨 sphenoidal bone (70)
上顎骨 maxilla (71)
篩骨 ethmoidal bone (72)
涙骨 lacrimal bone (73)
口蓋骨 palatine bone (74)
これらの骨を同定せよ。
・眼窩上孔(切痕)supra-orbital foramen (notch) (75);何が通るか
生体で触れてみよ。
・前頭孔(切痕)frontal foramen (notch) (76);何が通るか
前者と共通になって単一の穴(切痕)になっているかもしれない。
2-1-1. 上壁 root of orbit
・視神経管 optic canal (77)(27);何が通り,どこへ通ずるか
・涙腺窩 fossa for lacrimal gland (78);何が収まっているか
2-1-2. 外側壁 lateral wall of orbit
・上眼窩裂 superior orbital fissure (79)
何が通り,どこと交通しているか
・下眼窩裂 inferior orbital fissure (80)
何が通り,どこと交通しているか
2-1-3. 下壁 floor of orbit
・眼窩下溝 infra-orbital groove (81);何が通るか
↓ 眼窩下管 infra-orbital canal
↓ 眼窩下孔 infra-orbital foramen (83)
2-1-4. 内側壁 medial wall of orbit
・前・後篩骨孔 anterior and posterior ethmoidal foramen
何が通り,どこと交通するか (複雑!)
・涙嚢窩 fossa for lacrimal sac (85)(涙腺窩と間違えるな!)
・鼻涙管 nasolacrimal canal (86)
魚類での後外鼻孔の名残。
何が通り,どこへ通ずるか
ワサビが目にしみる解剖学的理由を考えてみよ。
2-2. 頬骨弓 zygomaic arch
・生体で触れてみよ。隣人と自分のそれの張り具合を比べてみよ。
・どの骨から成るか
・頬骨眼窩孔 zygomatico-orbital foramen
zygom_foramen.gif
2-3. 鼻腔 bony nasal cavity
・梨状口 piriform aperture (87)
・鼻骨 nasal bone (88);傾斜が,いわゆる鼻の高さを決める。
ナジオン(鼻根点)nasion (89) ;生体で触れるのは難しい
・後鼻孔 choana (90)
2-3-1.下壁
・口蓋骨 palatine bone (91)
・骨鼻中隔 bony nasal septum (92);湾曲の具合はどうか
= os ethmodale(93-1)+ vomer 鋤骨(93-2)
2-3-2. 側壁
・上鼻甲介 superior nasal chonca (94-1),中鼻甲介 middle nasal chonca (94-2),下鼻甲介 inferior nasal chonca (94-3)(下鼻甲介は独立した骨!)
meatus nasi superior 上鼻道 superior nasal meatus (95-1),superior nasal chonca 中鼻道(95-2),superior nasal chonca 下鼻道(95-3)
・鼻咽道 nasopharyngeal meatus (97) ----> 後鼻孔 choana

次の部分は折半標本の梨状孔を前下方から覗いてみるとよく観察できる。
・篩骨胞 ethmoidal bulla (98)
・鈎状突起 uncinate process of ethmoidal bone (99)
・半月裂孔 hiatus semilunaris (100);どの副鼻腔が開口するか
・蝶口蓋孔 sphenopalatine foramen (101);どことどこを連絡するか
2-4. 骨口蓋 bony palate
・= 上顎骨 maxilla + 口蓋骨 palatine bone
・横口蓋縫合 transverse palatine suture (102)
・正中口蓋縫合 median palatine suture (103)
・切歯縫合 incisive suture(成人では消失している)
[切歯骨 incisive bone(顎間骨 intermaxillary bone, premaxilla)](胎児期にみられる。ヒトにもあることをゲーテが記載した)
・切歯窩 incisive fossa (105)
切歯管 incisive canal (106) ;何が通るか
・歯 teeth
第三大臼歯がはえている,埋没している,歯芽もない割合はそれぞれ1/3くらいという。
・大口蓋孔 greater palatine foramen (108) ---- 大口蓋管 greater palatine canal
何が通り,どこと交通しているか
・小口蓋孔 lesser palatine foramen (110)---- 小口蓋管 lesser palatine canal
何が通り,どこと交通しているか
2-5. 翼口蓋窩 pterygopalatine fossa とその周辺
・翼状突起 pterygoid process;何が着くか
外側板 lateral plate of pterygoid process (112),内側板 medial plate of pterygoid process (113)
翼突鈎 pterygoid hamulus (114);口蓋帆張筋が巡る
・翼突窩 pterygoid fossa (115)
翼口蓋窩 pterygopalatine fossa (116);次の構造物が集まっている。釣り糸などを通して確認せよ。

   正円孔 foramen rotundum;後上方へ(から)
   下眼窩裂 inferior orbital fissure;前上方へ(から)
   大口蓋管 greater palatine canal;下方へ(から)
   蝶口蓋孔 sphenopalatine foramen;内側方へ(から)
   翼突管 pterygoid canal (121);後方へ(から)
2-6. 下顎骨 mandible
・下顎体 body of mandible (122)
・下顎枝 ramus of mandible (123)
・歯 teeth
・オトガイ隆起 mental protuberance (125);ヒトの特徴!
オトガイ結節 mental tubercle(境界は不明瞭)
・オトガイ孔 mental foramen (127); 何が通るか
眼窩上孔 supra-orbital foramen, 眼窩下孔 infra-orbital foramen との位置関係は
・下顎角 angle of mandible (128); 自分で触れてみよ。
・関節突起 condylar process of mandible (129) ---- art. temporomandibularis
・筋突起 coronoid process of mandible (130); 何が着くか
・翼突筋窩 pterygoid fovea (131); 何が着くか
・翼突筋粗面 pterygoid tuberocity (132);何が着くか
・下顎孔 mandibular foramen (133) ---- 下顎管 mandibular canal
何が通り,どこへ通ずるか
・顎舌骨筋線 mylohyoid line (135); 何が着くか
・顎舌骨筋神経溝 mylohyoid groove (136); 何が通るか
・上オトガイ棘,下オトガイ棘 superior and inferior mental spine (137); 何が着くか
・二腹筋窩 digastric fossa (138); 何が着くか
2-7. 舌骨 hyoid bone
・生体で触れてみよ,甲状軟骨と間違えるな。
・どの鰓弓から由来するか
・体 body (139)
・大角 greater horn of hyoid bone (140)
・小角 lesser horn

(参考)  頭蓋にみられるたくさんの穴や裂け目や溝には意味があることがわかったと思う。これらを交通する構造物の解剖はこれからの解剖実習でも大変めんどうなと ころでもある。
 ここでは,いくつかの脳神経から腺にいく副交感神経の経路をまとめてみた。針金などを使って追ってみよう。[ ]内は骨学上の構造物。

  1. 舌咽神経 glossopharyngeal nerve から 耳下腺 parotid gland へ
    舌咽神経 glossopharygeal nerve --> 鼓室神経 tympanic nerve --> [鼓室神経小管 tympanic canal]--> 鼓室神経叢 tympanic plexus --> [鼓室 tympanic cavity] --> 小錐体神経 lesser petrosal nerve --> [sulcus n. petrosi min. 小錐体神経溝 groove for lesser petrosal nerve] --> [蝶錐体裂 shpenopetrosal fissure] --> [卵円孔 foramen ovale ] --> 耳神経節 otic ganglion --> 耳下腺 parotid gland
  2. 顔面神経 facial nerve から顎下腺 submandibular gland,舌下腺 sublingual gland へ
    顔面神経 facial nerve --> 鼓索神経 chorda tympani --> [鼓索神経小管 canalicle for chorda tympani] --> [鼓室 tympanic cavity] --> [錐体鼓室裂 petrotympanic fissure] --> 舌神経 lingual nerve --> 顎下神経節 submandibular ganglion --> 顎下腺 submandibular gland, 舌下腺 sublingual gland
  3. 顔面神経 facial nerve から涙腺 lacrimal gland へ
    顔面神経 facial nerve --> 大錐体神経 greater petrosal nerve --> [大錐体神経溝 groove for greater petrosal nerve] --> [破裂孔 foramen lacerum] --> [翼突管 pterygoid canal] --> 翼突管神経 nerve of pterygoid canal --> 翼口蓋神経節 pterygopalatine ganglion --> [下眼窩裂 inferior orbital fissure] --> 涙腺神経 lacrimal nerve --> 涙腺 lacrimal gland

 ここに述べた神経,神経叢,神経節との交通は肉眼的なもので,必ずしもニューロンが神経接合しているわけではない。十分に注意せよ!


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