日本人類学会Auxology分科会

 

News Letter No.8

August 31, 1998

 

 

行: 日本人類学会Auxology分科会事務局

事務局: 東京都立大学大学院理学研究科身体形態情報研究室内

192-0364 東京都八王子市南大沢1−1

Phone & Fax: +81(426) 77-2970

E-mail: ohfumi@comp.metro-u.ac.jp or kajikawa-nobuo@ c.metro-u.ac.jp


[研究発表]

 

Waveletを用いた成長曲線のあてはめ(第10回研究会のホームページ)

藤 井 勝 紀

( Fit to the longitudinal growth curve by the Wavelet

Katsunori Fujii )

 

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はじめに

 

R.M. Malina教授(Michigan State University)を特別講演の演者に迎えて開催された昨年の第9回Auxology分科会研究会からはや10ヶ月が経過しました。

この秋の第11回Auxology分科会研究会は、佐賀医科大学の穐吉敏男教授が主宰して来られた「小城成長研究」というわが国を代表する縦断的研究プロジェクトについて、先生ご自身にこれまでの成果をご披露いただくとともに長年にわたるこの研究プロジェクトの回想をしていただくようにお願いしています。

さらにもう一つの特別講演の演者としてProf. Alex F. Roche (Wright State University) を予定しています。Roche教授は紹介するまでもないかもしれませんが、1968年からFels Longitudinal Growth Studyの研究部局の主任を務めて成長学に数々の業績を残されました。

Fels Research Institute はFels財団の支援で1929年にDr. L. W. Sontag 所長の下にアメリカのYellow Springs, OhioのAntioch

Collegeの一隅で研究を開始しました。後にAntioch Collegeと通りを隔てた位置に研究所のビルが建てられ、そこから骨成熟や身体組成等に関する多くの研究業績が世に出され世界における発育研究の中心的な役割を果たして来たことは衆目の一致するところでしょう。

私が在外研究員としてこの研究所に出張した1979年の秋にはおりしも研究所開設50周年の記念式典が催されましたが、その年はまた長年にわたって研究所を維持して来たFels財団による支援が限界に達してオハイオ州立のWright State University School of Medicineに移管された年でもありました。このような歴史を念頭に講演をお聞きいただくとRoche教授の回想を辿りやすいかもしれません。

なお、次回のAuxology分科会研究会日程は、Roche教授の都合で10月14日(水)の夕刻に設定されました。分科会の研究会は土曜日に開催する慣例でしたが、今回はこの日以外にはとれませんでした。講義や会議等の為に出席できない会員が多いことが予想されますがご了承下さい。(大槻文夫) 

 

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研究会開催のお知らせ

 

第11回AUXOLOGY分科会研究会・総会

日時:1998年10月14日(水)

総会2p.m.より

研究会3p.m.より

場所:東京都立大学国際交流会館 Conference Room 150

特別講演

龝吉敏男教授(佐賀医科大学)

小城成長研究について(仮題)

Prof. Alex F. Roche (Wright State University)

Memories and Lessons from The Fels Longitudinal Growth Study

(詳細別紙)

会員の方は9月19日までに出欠の連絡を下さい。問い合わせは事務局まで。

 

日本人類学会・日本顔学会公開シンポジウム

「どこまで伸びる日本人の身長:身体の形の変化‐過去・現在・未来‐」

日時:1998年11月21日(土)10:00−17:00 

場所:東条会館ホール (半蔵門)

〒102−0083 千代田区麹町1−4

電話03-3265-5111

問い合わせ先:東京都立大学理学研究科身体形態情報学研究室内日本人類学会公開シンポジウム準備係

Phone and Fax:0426-77-2970

E-mail: ohfumi@comp.metro-u.ac.jp

 

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第10回Auxology分科会研究会

 

シンポジウム:成長曲線

(オーガナイザー:川辺俊雄)

第 10回研究会は、東京慈恵医科大学高木会館において、1998 年 4 月 10 日(土)15 時から開催されました。

 

[研究発表抄録]

Wavelet を用いた成長曲線の当てはめ

藤井勝紀

愛知工業大学 ・基礎教育系健康科学

 

緒 言

 ウェーブレット( Wavelet )とは元来「小さな波 」あるいは「さざなみ」を意味する言葉である。工学分野では、振動や波動を扱う場合、局所的な振動波形を表す用語として古くから用いられてきた。現在のウェーブレット理論は、1980年代初頭にJ,Morlet(モルレー)が考えた(wavelet of constant shape)を使った新しい時間周波数解析に始まるとされている。彼は石油探査のために全く新しい発想として、一つの波を拡大縮小できる短い波、つまり、 Wavelet を考え出したのである。そして、この発想が1985年頃にMeyer(メイエ)により、数学の分野として抽象的枠組が整えられ、積分変換の離散化が試みられ、滑らかなウェーブレットによる完全正規直交基底を組み立てることに成功したのである。

 このような中で、筆者はウェーブレットを成長学に導入した訳だが、その背景には成長現象解明のために、数学的関数による曲線の記述が構成されてきたこと、それと、成長現象が年齢という時系列によって構成されることに端を発していることと考えられる。しかし、このような理由であれば、ロジスティック系の関数やスプライン関数でもいいわけで、故ウェーブレットでなければならないのか。それは、”真の成長曲線とは何か”という命題に一つのアプローチを得た事である。つまり、東郷の研究にあるように、毎日の成長記録は小刻みな波動を示しますが、その波動はある大きな波を形成する。この現象は考え方によれば、ある種の相似現象ではないだろうか。つまり、年齢軸を限りなく小刻みにしていっても、同じ波形が繰り返えされるという現象で、言い替えれば、自然界に存在するフラクタル現象ということである。その立証はともかくとして、このような現象を表現できる数学的関数は、フーリエ級数(解析)が考えられるが、その発展的拡張がウェーブレットであり、したがって、成長現象のフラクタル性を表現できる数学的関数としてこのウェーブレットが考えられ、このような発想がウェーブレットと接点を持つに至った訳である。

 今回の発表は、このウェーブレット解析を成長現象に適用し、真の成長曲線の近似として表現出来ることを示すものである。

 

 方 法

1)ウェーブレット解析をウェーブレット補間法(WIM: Wavelet Interpolation Method)という形で、身長、体重、胸囲、座高、下肢長の発育現量値に適用しそのグラフを描く。

2)ゲノードモンベヤールの息子の身長にWIMを適用し、発育現量値および速度曲線を描く。

3)フーリエ補間との比較を論議する。

4)ロジスティック関数との比較を論議する。

5)スプライン関数との比較論議

6)MPV年齢からの成熟度の指標を提示

7)成熟度別に身長のモデルパターンを提示

 

 結果および考察

 WIMの発育曲線への適用精度は極めて高いと考えられる。特に、速度曲線の表示に関しては従来の数学的関数にない有効性を示すことができたと思われる。今回、フーリエ補間との比較は、ここで初めて論議されたことになるが、明確な結果が示された意義は大きいと考えられる。また、スプラインとの比較においても、実際の発育曲線を描くことによる比較は初めての試みであり、WIMの有効性は明示されたと考えられる。このように、成長現象に対するWIMの適用は、その手法理論から判断して充分な有効性が指摘できよう。

 

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