第7回 Auxology 分科会研究会 19973月 大妻女子大学

 

 

 発育期の筋アーキテクチュア

 

福永哲夫,川上泰雄,船渡和男

東京大学大学院生命環境科学系

 

  発育期には男子では筋が発達し,女子では脂肪の付着が著しい.この身体組成の急激な変化は筋力やパワーなど身体の発揮機能に著しい影響を及ぼす.本研究では,発育期の男女について超音波法により身体組成を分析するとともに筋力等の機能的な側面からの発育期の男女の特徴について明らかにした.

1)発育期青少年の体肢組成

 7歳から18歳までの男子127名、女子124名を対象に、超音波法により体肢の筋および皮下脂肪断面積を測定し、それらにおける発育変化について検討した。男子の場合に、皮下脂肪断面積は7歳から12歳にかけて増加し、12歳から14歳の間では減少するが、15歳以降は再び増加した。女子の皮下脂肪断面積は、7歳から11歳までほとんど変化せず、11歳から14歳の間に急激に増加し、15歳以降はほぼ一定であった。筋断面積は男子では7歳から18歳まで年齢が進むにつれ増加するが、女子では上腕が14歳まで、他の部位が16、7歳まで増加がみられた。皮下脂肪および筋断面積における性差は13歳以降に顕著となった。

 筋に対する皮下脂肪の面積比は男子の場合に12歳から14歳にかけて減少したが、他の年齢ではほとんど変化がみられなかった。女子のそれは7歳から12歳にかけて減少し、12歳から15歳の間では増加し、15歳以降はほぼ一定であった。このことは男子では7歳から12歳、14歳から18歳の各年齢間では皮下脂肪断面積と筋断面積がほぼ同じ割合で増加するが、12歳から14歳の間では筋の増加が皮下脂肪のそれを上回ることを示すものと考えられる。また女子においては7歳から12歳までは筋の増加が皮下脂肪のそれを上回るが、12歳から14歳にかけては逆に皮下脂肪が筋より優位に増加すると考えられる。

 皮下脂肪断面積の上腕に対する前腕および大腿に対する下腿の比は、男女とも皮下 脂肪が増加する年齢間においては減少した。また筋断面積の上腕に対する前腕の比は 、男子では7歳から18歳まで、女子では7歳から14歳まで年齢とともに減少した。一方、大腿に対する下腿のそれは、男女とも年齢による変化はみられなかった。したがって発育期においては皮下脂肪断面積は男女とも前腕より上腕および下腿より大腿において、また筋断面積は前腕より上腕において、それぞれ優位に増加すると考えられる。

 

2)筋断面積と筋力との関係

 6歳から19歳までの男子140名と女子131名を対象に、筋断面積および身長との関連で筋力の相対発育について検討した。アイソキネティック力量計を用いて肘関節および膝関節の屈曲、伸展における当尺性最大筋力を測定した。上腕および大腿の屈筋群と伸筋群の横断面積を超音波法により測定した。筋断面積あるいは身長(X)と筋(Y)との関係からアローメトリー式Y=bXaを算出した結果、まず身長と筋力の関係では、係数aは男子3.081−3.895、女子2.498−3.771であり、いずれも理論値“2”より高い値であった。一方、筋断面積と筋力の関係においては、係数aは男女の肘関節伸筋群および女子の膝関節屈筋群がほぼ理論値“1”に等しい値を示した。しかし、肘関節屈筋群および膝関節伸筋群のそれは1.434−1.605であり、理論値より高い値であった。またこれらの筋群における単位筋断面積当りの筋力は、身長が高くなるにつれ増加する傾向がみられた。

 このような結果は肘関節屈筋群および膝関節伸筋群における筋力の発育速度は、筋 断面積のそれを上回ることを示すものであり、その理由として日常の筋活動に対する 神経ー筋系の適応を考察した。

 

3)発育期の筋力トレーニング

 小学生2、4学年児童(95名)を対象に、筋力トレーニングの効果の有無を、主に筋断面積と最大筋力の変化から検討することを目的とした。トレーニング群(以下TG、63名)は以下に述べるトレーニングを行い、コントロール群(以下CG、32名)には特に運動制限を加えず、通常の学校生活を営むよう指示した。トレーニング内容は肘関節静的最大屈曲の10秒間維持を3分以上の休息を挟んで3回行うことを1セットとし、頻度は1日2セット、1週間に隔日の3日、期間は12週間とした。トレーニング効果判定のための測定として、肘関節屈曲、伸展の静的および動的筋力をロードセルあるいはCybex IIを用いて、また上腕組織横断面積は超音波法により測定した。また各披験者の骨年齢をTW2法により算出した。結果は以下のとおりである。

(1)骨年齢の分布は2年生では5.3歳から10.3歳、4年生では7.3歳から11.9歳の範囲を示し、殆どのものは正常の発育段階にあった。

(2)上腕屈筋群の横断面積は、TGでは全集団とも増加傾向を示し、この増加は2 年生女子(13.81%、0.68cm2、p<0.01)、4年男子(14.91%、0.94cm2、p<0.001)および4年女子(16.89%、1.10cm2、p<0.001)において統計上有意であった。これに対して、CGの同断面積は、どの学年および男女の集団においても統計的に変化しなかった。

(3)トレーニング前後での右肘関節の静的最大屈曲力は、TGにおいては、各学年 の男女とも統計上有為な増加を示し、ロードセルから得られたトレーニング後の筋力 増加率は2年男子で17.4%(p<0.01)、2年女子で20.3%(p<0.001)、4年男子で22.2%(p<0.001)、4年女子で25.4%(p<0.01)であった。これに対してCGの同筋力は、どの学年および男女の集団においても統計的に変化しなかった。

(4)TGにおける単位断面積当たりの屈曲力は、2年男子のみに統計上有意な増加 が見られ、他のグループでは統計的に変化しなかった。

(5)思春期前児童の静的筋力トレーニングでは、筋力および筋断面積は増加を示す ものの、単位断面積当たりの筋力に有意な増加が示されないことが特徴であった。