日本大学松戸歯学部
最近,健康という観点から,身体活動あるいは運動や life style と,形態や機能の加齢変化を明らかにすることが急務であると認識されるようになってきた.縦断的調査は,成長研究にとって重要であると事あるごとに述べられてきた.発育・発達研究は,誕生から乳児期,幼児期,学童期,思春期を経て身体的に完成する時期に関するもので,からだの変化はヒトの一生の中でも変化に富み,関心の持たれるところである.縦断的研究は,加齢変化に関するものである.縦断的調査資料は実験的に追試することは不可能であり,重要な意味をもつ.形態に関する研究に比べ,機能に関する縦断的研究は非常に少ない.この種の縦断的研究を遂行するのは困難ではあるが,からだの発育・発達を解明する上で不可欠である.そこで,被検者数は少ないが,思春期のからだの発育と体力の発達の様相,ならびに相互関係について観察検討するため,我々が解析しつつある縦断的調査の概要と,縦断的解析のねらいについて報告したい.
被検者は,特別な運動選手を含まない男子 9 名である.計測は,被検者の暦年齢が9 歳から17 歳に至る 8 年間で,毎年一回ほぼ同時期に行った.当初は男女について計測を計画し実行したが,中学生になって,女子の全員が計測から脱落してしまった.計測を進める中で,児童・生徒との協力関係を構築する過程に困難と重要な意 義が含まれることを再認識した.
計測項目は身体計測(身長,体重,座高,胸囲他 13 項目,皮脂厚(13 カ所)) ,骨年齢,筋断面積(大腿筋断面積,下腿筋断面積),筋力(膝関節伸展力,足関節 底屈力),最大酸素摂取量,乳酸性作業閾値,左室拡張期径などである.骨年齢は, 左手手部 X 線写真撮影を行い, TW2 法により決定した.大腿及び下腿筋断面積は, 超音波法により伸展位で測定し,断面積はプラニメーターで計測した.最大酸素摂取 量は,アニマ社製呼気ガス分析器を用い,トレッドミルによる速度漸増負荷法により,連続的に呼気ガスを分析した.水平位で 80m/min からスタートし,年齢などに応じて 15m/分または 20m/分の幅でスピードを上げ,exhaustion に追い込んだ.血中 乳酸濃度は,耳垂からヘパリン処理したヘマトクリフト管に採血し,除蛋白後酵素法 を用いて測定した.心臓の形態の測定は,フクダ社製 SSD-720 断層心エコー装置を用い,安静仰臥位にて行い,断層像モードにより,ビームの方向を確認しながら M モード記録を行い左室拡張期径を計測した.
身体各部の形態の発育速度は部位によって異なり,発育勾配は大まかに決まっている.機能の発達勾配といったものがあるのか.先ず,形態との関係で機能発達につい て,骨の化骨度から成熟度を測る骨年齢を基準に,身長,体重,座高,筋力,呼吸循 環系機能の指標として最大酸素摂取量,その形態的要因として左室拡張期径を用い,予備的に体力の発達について検討を加えた.縦断的に観察した結果,身長の思春期発育スパートがみられるものでは,その時期に一致して呼吸循環系能力および筋力の発達の増大がみられる者もいるが,それらが一致しない者もいる.また,個人別に最大酸素摂取量(ml/kg・min)と左心室拡張期径の相関分析を行った結果,相関係数の高 い者から低い者までさまざまであり,個体差は大きい.
縦断的調査資料の解析にあたり,平均成長(average growth)の観点からみた集団の成長の様子と,個人成長(individual growth)の観点からみた個人の成長の様子 は異なり,さらに個人間のバリェーションも非常に大きく,集団で分析した場合と結果は非常に異なる傾向が伺えた.縦断的資料収集の困難さはいうまでもなく,解析法 と結果の解釈の方法にも多くの困難と,問題がある.縦断的研究に纏わる問題を解決 しつつ,発育・発達の様相を明らかにしていくことが必要である.