筑波大学体育研究科
思春期のこどもの運動 能力を評価する時は,成 長の個人差を考慮する必要が ある.そのために,従来,骨成熟が使用され てきた.しかし,骨成熟 を知るには ,X 線撮影の 制約や危険性が伴う.そこで,非侵襲的に測ることができる生物学的成熟の指標として,身長成熟度を求め,運動能力との関係を調べた.
個人のある時点において,予測成人身長を実際の身長でわった百分率を身長成熟度 とした.予測成人身長は BTT モデル(Bock, Thissen and du Toit, 1994)によって 求めた. BTT モデルは,3重のロジスティックな成長曲線を縦断的身長データにあ てはめて 25 歳時の成人身長を予測をする方法である.本研究では,小学校 6 年間 の身長データを予測データとして使用した.小城成長研究の資料から,中学生におけ る身長成熟度の精度を検討した.中学生男子では,身長成熟度の実測値と予測値の相関は高く(r = 0.94),身長成熟度と骨成熟(TW2 20-bone score)との相関も高か った(r = 0.82).女子では,中学生では成人身長に到達するものが多く,身長成熟 度は実測のものとはやや異なった(r = 0.66).したがって,男子では予測身長成熟 度は,骨成熟にかわる生物学的成熟の指標となることが明らかとなった.
運動能力との関係を検討するための資料は,茨城県つくば市の公立中学校に在籍し ている生徒,男子 277 名,女子255 名を対象とした.すべての生徒を対象に,過去 に学校で実施された健康診断とスポーツテストの追跡調査を行い,混合縦断的な資料 を得た.小学校での身体計測時の暦年齢と身長の 6 年間の縦断的データから,BTT モデルにより成人身長を予測した.
男子の 3 学年を含む横断的データを使用し,各スポーツテストの結果と身長成熟 度・暦年齢・身長・体重・BMI との相関分析を行った.パワーを要する種目(垂直と び・50m 走・走り幅とび・ハンドボール投げ)や,筋力を測る種目(背筋力・握力) と身長成熟度・暦年齢・身長の 3つの成長指標と高い相関を示した(|r|> 0.47) .そこで,各スポーツテストの結果と身長成熟度・暦年齢・身長(現量値)のそれぞ れの偏相関を求めた.走力を評価する 50m 走は身長成熟度との偏相関がもっとも高 かった(r = -0.31).敏捷性を評価する反復横とびは暦年齢との偏相関がもっとも 高く(r = 0.22).経験や習熟による発達が考えられる.握力とハンドボール投げは 身長の影響が大きかった.筋力は筋断面積に比例し,筋断面積は身長の二乗に比例す るという関係から説明できるかもしれない.女子においては有意な関係はあるものの,高い相関を示すものはなかった.
学年ごとに,身長成熟度のパーセンタイル値により,晩熟(0 〜 25パーセンタイ ル),普通(25 〜 75 パーセンタイル),早熟(75 〜 100パーセンタイル)の 3 群に分け,各スポーツテスト種目の一元分散分析を行った.男子では,1 年では柔軟 性以外のほとんどの種目(敏捷性・パワー・筋力・持久力)に 3 群あるいは 2 群の 差が見られたが,3 年では,走り幅とびを除き成熟差はなかった.走り幅とびは 3 年間一貫して早熟群が晩熟群より記録が高かった.女子は,3 年間一貫して成熟差の ある運動種目はなかった.すなわち,身長成熟による運動能力の違いは,身長成熟が まだ完熟していない中学低学年で顕著であるが,加齢とともにその差がなくなる.