第3回 Auxology 分科会研究会 1995311日(土) 大妻女子大学

 

 

 ヒトの骨年齢

 

高井 省三

筑波大学体育科学系

 

Toddの骨格成熟図譜(l937)にはじまった手骨の骨成熟評価法はより客観的な生物学的年齢尺度を提供する。このような骨成熟度を評価することでその個人が成熟に向かうどの地点(里程標)にいるかが分かる。成人身長の予測はその応用の成功例の一つとなっている。骨成熟評価法のなかの一つのTanner‐Whitehouse 2 (TW2)法を中心にヒトの骨成熟(骨年齢)にまつわるいくつかの間題を考えて見た。

はじめに,骨成熟で何がわかるかを考える。児童の骨成熟スコア(TW2 RUS)と身体計測値の関係をみると,RUSスコアと筋骨格系項目のサイズの相関が高いが,頭部のサイズと特に皮脂厚とは相関が低い。つまり,骨成熟はScammon(1930)の成長パターンの一般型の形質の成長を反映しているといえる。

骨成熟を比較する場合に問題となるのは,信頼性・再現性である。トレーニングによって評価者内誤差は小さくなるが,異なる評価者間の誤差はどれくらいだろうか。TW2の創始者と白己学習者の骨成熟評価の一致率はおよそ80%であった。この誤差を念頭において,さまざまな人類集団の骨成熟の比較,骨成熟の年代差を考えなければならない。われわれの「小城成長研究」の10年間を見ると,部分的な年齢集団で3,4年にわたり早熟化していた。しかし,全体として見ると一定した時代化傾向はなかった。

骨成熟時間軸のでからだの成長をみたらどうなるだろうか?RUSスコアと身体計測値のアロメトリー解析を試みた。からだの成長形質の多くは多相アロメトリーパターンを示した。その変調点は骨成熟過程の1/3または2/3,あるいは両者の時点に出現した。そして,女児の成長テンポは男児より早いが成長完了の時期は男子のほうが早いということが分かった。身長の成長に焦点をあてると,男子の身長はRUS骨成熟の55%地点で,女子の身長はで68%地点で最大増加に連していた。成長・成熟速度でみると,男子は身長の最大増加(12.8歳)よりも2.8年遅れてRUS骨成熟の最大増加(15.6歳)を見せた。女子のRUSスコア成熟速度曲線は双峰性で,身長の最大増加(11歳)とほぽ同時にRUS骨成熟の初めの最大増加を示した。第2の骨成熟の最大増加は3年遅れて出現する(14歳)という結果であった。

骨成熟は軟骨から骨への変化だから長管状骨の軟骨が早く骨に置き換わると身長の成長の可能性がうすくなる。では,骨成熟が早熟な子どもは小さな大人になるのだろうか?結果は,骨成熟完了年齢と成人身長の大きさは無関係であった。日本人児童の骨成熟は中国,インドのアジアの児童と同じ様な成熟パターンを示す。ヨーロッパの児童に比ぺ日本人児童は思春期前で英国児童よりも遅れるが,以後は彼らを上回り骨成熟完了年齢も早い。上の結果から,アジアの成人身長がヨーロッパの成人に比ぺて小さい原因を骨成熟の早熟さに求めることはできないようだ。

骨成熟を目安に成人身長を予測することは身長制限のある職業を望む児童の指導やスポーツタレント発掘などに意義がある。日本人児童のための予測式は多田羅(1989),立花(1994),松岡ら(1994),高井(1994)らが,暦年齢,身長,骨成熟,初潮をパラメータとしてそれぞれ発表している。後2者の式を別な集団に当てはめたときの再現性は0.48〜3.53%の相対予測誤差であった。この値をみると,TW2法が英国児童を元に推定式を求めているにもかかわらず,オリジナル式は日本人児董にもかなり正確に当てはまることがわかる。さらにパラメータに両親の平均身長を加えた我々の予測式は推定精度をさらに上げることができた。しかし,初潮後の女子については両親の平均身長のパラメータは無用であった。