第3回 Auxology 分科会研究会 1995311日(土) 大妻女子大学

 

 

 霊長類の歯牙年齢と骨格年齢

 

濱田 穣

 京都大学霊長類研究所

 

ヒトの特徴的な発育パターンの進化をさぐることを主目的として,霊長類の様々な種の発育パターンが比較・研究され,系統発生学的検討が古くから行われている(例,ポルトマンの2次的就巣性仮説など。)本稿では,霊長類の歯と骨格の発達について概説する。いくつかの主要霊長類種に関して,種内変異をも含む詳細な歯萌出研究が行われるようになった(e.g. Iwamoto et al., 1984, 1987;Kuykendall et al., 1992)。種特有の萌出スケジュールを記述するような関数も考案されており,歯牙年齢を生物学的年齢として,系統発生学的考察が可能となろう。また最近の研究動向として,個体発生パターンをその種の生活史(Life history)と結びつけて検討することが試みられるようになってきた。発育のそれぞれの段階に特有の適応が働いているだろうことを前堤としている。Smith et al(1994)は原猿類からヒトにいたるまでの乳歯と永久歯の萌出年齢を,種横断的に相関・回帰分析し,歯の萌出は非常に規則正しくスケジユール化されていること,さらに萌出年齢と脳垂量の相関係数が非常に高いことを明らかにした。歯は食物を直接咀嚼する器官であり,個体のエネルギー摂取と密接に関係している。従って,身体サイズの系統発生学的増加に間連して萌出パターンに変化があるだろうと予想されるが,この発見はそれを証明するものとなった。脳は単位重量あたりの工ネルギー消費が高いため,相間係数の高さは納得できる。一方で脳の大型化は長寿命化も意味し,歯はそれを支えるため,さらに高い必要エネルギーが必要とされる発育期をカバーすべく,萌出期間が延長された,等々の推測ができる。このように,萌出年齢もサイズと強い関連を持ち,スケーリング現象の一つと考えられ,さらに他の生物学的特徴との関連性が期待できる。霊長類の骨格発達研究は,手間がかかることが災いして進展はゆっくりしている。昨年10月亡くなったWattsは,ォマキザルの出生時骨化点数の少ないことから,従来考えられていたような,サル段階での離巣化は必ずしも当てはまらず,オナガザル類が単独で二次的に離巣化したと指摘した(1990)。このことは,類人猿やヒトの新生児の未熟さは二次的なものではなく,祖先からの特徴の継承であることを意味する。骨格発達をヒト研究に匹敵するレベルで行ったものは,殆どなかった(Watts,1971は例外)。最近,著者らはチンパンジー等について,ヒトの骨発達教科書に準拠した研究を行っている(Hamaada et al., 1994)。詳細は他に譲るが,コドモ期の長さや思春期スコア増加ピーク速度などの定量的な違いはあるが,チンパンジー骨格発連パターンはヒトのそれと同様であることが見いだされた。骨格発達パターンは周思春期ではSomaatic growthパターンに類似し,性成熟と強く関連すると考えられる。