食物アレルギーと成長

               国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部

                                 田中和子

              

 食物アレルギーとは腸管の発達状況、遺伝的因子、環境要因など何らかの影響により食品がアレルゲンとなり免疫学的な機序により蕁麻疹、アナフィラキシーショックなど生体にとって異常な反応を引き起こすものを指す。食物アレルギーの多くは食物摂取後およそ2時間以内に症状が出現するので即時型アレルギーといい、その発症機序は、生体内に食物抗原が侵入しIgE抗体が産生され、マスト細胞と結合し感作が成立した状態のところへ再度抗原(アレルゲン)が侵入し、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどのメディエーターが遊離され、蕁麻疹などの皮膚症状、消化器症状、呼吸器症状、時にアナフィラキシーショックなどの症状が出現する。IgE抗体は、食品成分中の主としてたんぱく質に存在する10個内外のアミノ酸残基を認識し、この部分が抗原決定基といわれる。

 食物アレルギーに限らず、アレルギーは胎内から既に始まり、アレルギー疾患の家族歴のある児の臍帯血は家族歴のない児に比較して特定のT細胞の分画が少ないという報告がある。また胎児に影響を与える環境因子として、胎児の受動喫煙、ダニ抗原の除去があげられ、ダニ抗原が羊水中および胎児の循環血液中に検出されることや臍帯血中の単核球がダニ抗原に対して抗原特異反応を示すことが報告されている。

 古くから、乳幼児の食物アレルギー発症予防のため、妊娠中の特定の食品の除去が指導されてきたが、その後の研究により妊娠中の除去食のみではアレルギー発症に影響を与えないことが明らかになり、妊娠中の特定の食品の制限は推奨されていない。

20002002年の厚生労働科学研究費により行われた「食物アレルギーの実態及び誘発物質の解明に関する研究」の全国調査によると、食物アレルギーと確定診断された3,882名のうち、年齢別患者数は0歳児が全体の33%を占め最も多く、年齢が高くなるにつれてその数は漸次減少し、7歳までが全体の80%を占め、食物アレルギー患者は小児期に多いことがわかる。しかし成人も全体の10%を占める。

 また、食物アレルギーの原因となった食品は1位が鶏卵で37%、次いで乳製品15%、小麦8%であり、かって三大アレルゲン(卵、牛乳、大豆)の一つといわれた大豆は2%を占めるにとどまり9位に後退している。その他、果実類、そば、魚介類、ピーナッツ、いくら等多くの食品が原因食品になっている。

年齢別原因食品は、06歳までは鶏卵、乳製品が上位2食品であり、特に0歳では鶏卵62%、乳製品20%と大きな割合を占める。719歳では甲殻類、鶏卵、成人は甲殻類、小麦が上位2食品である。これは鶏卵、乳製品は年齢を経るにしたがい消化管や免疫機能の発達にともない多くの児がアレルギーを起こすことなく摂取することが可能になるが、甲殻類は成人になっても寛解することなく原因食品であるか、成人になって新たにアレルギーを引き起こす食品であることを示している。

食物アレルギーによる症状は蕁麻疹などの皮膚症状が最も多く、呼吸器症状、粘膜症状、消化器症状、ショック症状が続く。Egglestonらは、食物アレルギーの経過と予後について、3歳までの初診患者では71%が寛解するが、3歳以降の初診患者では31%が寛解することを報告し、馬場らは、鶏卵、牛乳アレルギーともに3歳で5060%、6歳で70%以上、9歳で80%以上が寛解することを報告している。

  食物アレルギーの中には、食物依存性運動誘発アナフィラキシーといわれ、食事後運動中に生じるアレルギーがある。この機序は不明な点が多いが、運動により肥満細胞の脱顆粒の促進や、運動により食物抗原の吸収が高まることも一因とされている。

 食物アレルギーには交差反応があり、白樺花粉やブタ草にアレルギー症状を呈すると、りんご、もも、メロンにもアレルギー症状を呈し、えびにアレルギー症状を呈すると、かにやロブスターにもアレルギーを引き起こす確率が高いことなどが知られており注意を要する。

 アトピー性疾患の罹患率と兄弟数または感染症罹患率の減少間には負の相関があることが最近報告され“hygiene hypothesis”として知られている。

アトピー児と非アトピー児における生後直後のT細胞の反応の成熟過程を比較した結果、生後直後の免疫応答においては、T helper (Th) 2型の反応を示すが、非アトピー児では生後6ヶ月頃までに何らかの刺激によりTh2優位の免疫応答がTh1優位の免疫応答に成熟することが報告された。Th1型の免疫応答を誘導する因子として、伝統的な生活様式、大人数または年長の兄弟のいる家庭での成育、小児期早期におけるある種の感染症への罹患、農場での成育などが疫学研究の結果として報告されている。Th1型への免疫応答を誘導することができれば、アレルギー疾患発症の予防につながる可能性があり、現在研究が進められており、今後が期待されている。