第15回分科会研究会 2000年11月25日(土) 大妻女子大学
東京都立大学
体脂肪は、知らず知らずのうちに蓄積する。たとえば、還暦(60歳)を向かえた男性の体重が20歳だった頃に比べ40年間で5kg増加したとする。実際、現在の60歳代が20歳だった頃のBMIは約22kg/m2で、身長と体重の平均値は165cm、60kgであった。そして、現在のBMI値は約24kg/m2であり、現実に体重は平均約5kg の増となっている。一般に加齢による体重の増加には、筋量の増加をともなわない。逆に筋量は加齢によって減少し、その低下率は10年で約2%ずつと考えられている。したがって、体脂肪の増加は体重の増加分より多いことになる。20歳の頃の体脂肪率を一般的な値である15%(体脂肪量9kg)と仮定すると、60歳の体脂肪率はなんと28%(体脂肪量18kg)に変化したことになる。体重は40年間で5kg、1日あたりで計算すると1gにも充たない量の変化だが、からだは明らかな肥満体になっている。 体脂肪は、皮膚の下に存在する皮下脂肪と腹腔内にある内臓脂肪に分けることができる。からだ全体の体脂肪に対する内臓脂肪の割合は、20歳では10%程度だが、男性では60歳頃には約30%まで増加する。計算上、40年間に増加する皮下脂肪量は1.5倍(8kgから12kgに増加)だが、内臓脂肪はなんと6倍(1kgから6kg )にも増える。この内臓脂肪の増加が生活習慣病の元凶となり、糖尿病や高脂血症、高血圧などの発症に深く関与していることが指摘されている。 内臓脂肪を減少させるには、基本的に体脂肪量を改善する必要がある。内臓脂肪に対する食事制限の効果を検討した研究では、摂取カロリーを減らすことによって内臓脂肪、皮下脂肪ともに減少し、その減少割合はいくぶん内臓脂肪の方が高いという。しかし、食事制限は体脂肪だけでなく、大切な筋量も減らしてしまう。一方、運動のみの効果を検討した研究では、内臓脂肪も皮下脂肪も減少するが、どちらの脂肪の減少に運動がより効果的かという問題については十分に解明されていない。運動と食事制限を組み合わせると内臓脂肪は効果的に減少する。週1〜2回の運動頻度でも軽い食事制限を併用すると、その効果は有酸素運動を高い頻度で実施した時の効果に匹敵する。運動の強度としては、40〜60%程度が有効であり、可能なら持続的に行なう方が脂肪燃焼には適している。しかし、有酸素能力向上のトレーニングとは異なり、主に消費エネルギー量の増加を目的とした運動であれば、5分とか10分の「細切れ運動」であっても総運動量が確保されれば目的は達成される。特別「20分以上の持続」にこだわる必要はない。体脂肪が減少し内臓脂肪量に改善がみられると、糖尿病や高脂血症、高血圧などの生活習慣病の症状は確実に改善されることが報告されている。当然の事かもしれないが、内臓脂肪の改善効果は、蓄積量が多い者の方がより効果的である。 知らず知らずに変化するのは体脂肪だけでなく筋も同じである。20〜30歳代の筋力を基準にすると、70〜80歳代の高齢者における下半身の筋力は35〜45%低いレベルにある。特に50歳以降での低下はより顕著である。この筋力の加齢変化は縦断的な調査でも確認されており、60歳代からの12年間に膝伸展・屈曲力が約30%減少したと報告されている。 加齢による筋力の低下には、筋の量的および質的な変化が関与しているものと考えられる。筋の量的な変化、すなわち、筋横断面積などの筋サイズが加齢にともなって変化することは多くの研究によって確認されてきた。しかし、筋の質的要因である固有筋力(筋の生理学的断面積あたりの筋張力)については今でも十分に解明されていない。つまり、固有筋力の加齢変化を正確に測定した研究は現在でも存在しないのである。これまでの研究では、筋のサイズは解剖学的断面積が、筋力は関節トルクが利用され、結果的に一致した結論には至っていない。筋の量的な変化は生活環境と密接に関係しているものと考えられる。一方、筋の質的な変化が加齢によって起こるのか否かは不明であり、筋の加齢変化を考えるうえで是非解明すべきテーマである。現在では、筋線維長や筋線維走行角度、モーメントアームなどの筋形状を比較的正確に計測できるようになってきた。これらの手法を使って固有筋力の加齢変化がもうすぐ解明されることであろう。