日本人類学会Auxology分科会
News Letter
No. 4 1996-8-1


はじめに

このNL,No.4がお手元に届く頃も,暑さで茹蛸に変身したような日々が統いていることと思います。昨年秋以来,奥住秀之(東京都老人総合研究所),加藤久雄(東大大学院理系研究科),周霞(大妻女子大)の3氏が入会されました。3月9日の研究会では,浅香昭雄教授(山梨医大)に双生児の成長のご講演をいただいた後,やはり本会に入っていただきました。これを機に,成長研究の対象が現在のヒトの形態の成長から,機能,遺伝,進化,生態に拡がるとともに,これらの分野のつながりができることによって深くもなっていくことが期待されます。
今後の予定ですが,l2月に高井省三会員の主催で第6回成長研究会が開かれます。会員諸氏は年末行事のひとつとして予定表に組込んでおいて下さい。また来年6月には,本会会員の高石昌弘教授が理事になっておられる第8回International Congress of AuxologyがUSAのPhiladelphiaで開催されます。近々第2回サーキユラーが来るのではないかと思いますので,関心のある方は私まで申し込んで下さい。コピーをお送りします。(芦澤玖美)


第5回Auxology分科会
1995−96年総会議事録

日時:
1996年3月9日(土)14時−18時
場所:
大妻女子大学セミナー室
出席者:
浅香,芦澤,大槻,奥村,加藤(則),加藤(久),川畑,熊倉,小林,佐竹,周,高井,高石,陳,濱田,平塚

議長に高井が指名された。

報告
  1. 高石選挙管理委員から選挙の結果,芦澤,大槻(新),河辺,佐竹,濱田(新)が幹事として選出された旨の報告があった。
  2. 大槻から,幹事の互選により芦澤が代表幹事に就任したこと,Auxology分科会運営細則第6条および付則1に基づき代表幹事が熊倉を幹事に指名したこと,さらに会計監査役は猫田に就任を依頼することが報告された。
  3. 1994−95年決算報告(熊倉)

収入

繰越

85,362円

年会費

36,000円

人類学会補助金

30,000円

預金利子

834円

合計

152,196円

支出

通信費

9,570円

謝金

40,000円

雑費

1,102円

合計

50,672円

残金(次年度へ繰越)

101,524円

合計

152,196円

猫田会計監査役による監査が行われ,会計の執行が適正であったことが報告された。(資料回覧)
  • 熊倉から,会費納入状況は会員42名中本年分の未納者は7名,過去3年問の未納者は1名であることが報告された。
  • 活動報告(芦澤)
    1. 研究会を2回開催した。
    2. 第2回Auxlogy分科会研究会
      1994年12月17日
      演者 Stanley J. ULIASZEK
      第3回Auxlogy分科会研究会
      1995年3月11日
      演者 佐藤亨至,濱田穣,高井省三
  • NewsLetter no. 2を1995年8月1日に発行した。
    1. その他 高石からThe Eighth International Congress ofAuxologyの開催通知が来ていることが披露された。会期は1997年6月29日−7月2日,場所はThe Children's Hospital of Philadelphiaである。
        審議
        1. 1995−96年予算案について熊倉から説明があり,承認された。

        収入

        繰越

        101,524円

        年会費

        36,000円

        人類学会補助金

        30,000円

        預金利子

        834円

        合計

        168,358円

        支出

        通信費

        12,000円

        謝金

        40,000円

        雑費

        5,000円

        施設使用料

        20,000円

        残金(次年度繰越)

        91,358円

        合計

        168,358円

      1. 幹事会の回数を増やし,遠隔地から出張する幹事の交通費を支給する。
      2. 次回の第5回Auxology分科会研究会開催は,高井が世話役を引き受けることを承諾した。会期については高井に一任することになった。

        1. 第5回Auxology分科会研究会
          研究発表抄録

          シンポジウム:乳幼児の成長
          (オーガナイザー 加藤則子)

          1.幼児の成長の時代変化と地域差

          平塚真紀子
          大妻女子大学人問生活科学研究所

          ヒトの体の大きさや形の違いには遺伝的要素や生活環境が要因としてあげられる。人間が成長していく過程で幼児期は成長が顕著な時期であり,しかもその後の思春期成長にも大いに関係があるにも関わらず,人類学的な研究は数少ないように思われる。そこで私たちは幼児の体格・体形がどのような特徴を持っているのかを調ベ,他の研究者の資料と比較し,性差・地域差・時代差などについて考察した。調査は1994年10月から1995年7月にかけて,千代田区内の5つの公立保育園で実施した。対象は1歳から7歳までの女児117名,男児130名である。この被験者の中には外国人10名,混血児5名も含まれている。被験者は上半身裸で,IBP法に準じて22項目を測定した。低年齢の被験者の中には測定を怖がり拒否する子どもがいたので,測定可能な項目のみデータとして採取した。
          まず,臥位身長と立位身長の差について調べた。一般に言われるように臥位は脊柱が伸び,しかも子どもはX脚が多いので立位では白然に足を開いた状態で計測することになるため,当然立位身長より臥位身長の方が大きかった。この差は男児で平1.9 cm,女児で平均1.6 cmである。また,この差の臥位身長に対する比は年齢が進むにつれ小さくなるという傾向が認められた。
          次に,千代田区内の性差についてノンバラメトリック検定(Wilcoxon)と,SDスコアの観察を用いて調べた。これらの結果から,頭部は男の方が大きく,皮下脂肪厚は女の方が厚く,腰囲,四肢の周長も女の方が大きいことが明らかになった。このことから千代田区では女児の体つきが幼いときから丸みを帯びているといえる。
          地域差の比較には,埼玉県深谷市のさくらんぼ保育国の資料を用いた。この資料は本研究の測定年より13年前に行われたものであるが,すでに日本社会は安定期に入っているので,千代田区の子どもとの差は地域差と判断することにした。比較にはノンパラメトリック検定とSDスコアの観察を用いた。まず測定値では,男女とも千代田区の方が大きい項目が多いことが特徴的である。しかし,腰囲は男女ともさくらんぼ保育園の方が大きいという傾向がみられる。示数項目をみると,Body Mass Index,Rohrer Index,身長に対する周長は,さくらんぼ保育園の方が大きい。したがって,さくらんぽ保育園は千代田区に比ぺ丸みを帯びた体形をしていることになる。
          時代差の比較には,小泉が1950,51年に測定した東京,千葉,神奈川の子どもの資料を用いた。小泉の年齢区分は国際的な年齢区分より0.5歳大きい方にずれているので,隣り合った2年齢グループの中間値を算出し,本研究の年齢区分に合わせた。したがって標準偏差が得られないため,統計的検定は行わず,SDスコアの観察を用いて比較した。その結果,45年前の子どもに比ぺ男女ともいずれの項目でも現在の子どもの方が大きいことが明らかである。特に身長,腸骨棘高,上肢長などの長・高径に大きな時代差が認められた。反対に,頭部は他の項目に比ぺ時代差が小さく,このことは頭の大きさが他の部位に比べ45年間あまり大きく変化しなかったことを示す。また示数項目をみると,身長に対する長・高径は明らかに45年前の子どもの方が小さく。このことは四肢が相対的に短かったことを意味する。Body Mass Indexには大きな差がなかったが,Rohrer Indexは男女ともいずれの年齢でも45年前の子どもの方が大きいことが特徴的である。身長に対する周長や幅径もまた45年前の子どもの方が大きいため,現在の子どもは45年前の子どもより測定値は全ての項目で大きいが,体の形はほっそりとして華奢だと言うことがわかった。

          2.乳幼児期の体重増加の特性

          加藤則子
          国立公衆衛生院

          現在わが国では乳幼児の発育評価は厚生省乳幼児身体発育値を用いて行なわれることが多い。この発育値の使用上の注意には「この発育値は横断データによるもので,個々の例が実際にこのような曲線に乗って発育するのではない」という但し書きがついている。そこで,実際の乳児の発育状況の特徴をなるぺく明確に描きだすことを目的としてこの研究を始めた。
          この研究に用いられたデータセットは主に二つのデータセットからなる。一つは昭和35年から50年までに母子愛育会愛育病院で生まれ,保健指導部でフォローされ比較的データが揃っている約2千例であり,主にチャンネル間の推移の検討に用いている。
          もうひとつは,平成元年度−3年度の厚生省心身障書研究「地域・家庭環境の小児に対する影響等に関する研究」の研究協力班「乳幼児の発育発達の縦断的研究」で集められたもので,全国53病院からの3,183例である。出生時期は平成元年の12月から平成2年の3月までを中心とした時期であり,計測間隔は2−3カ月が多く,3次スプライン関数によって補間し半月ごとの値を求めたものである。体格の推移に関しては厚生省身体発育値の3,10,25,50,75,90,97パーセンタイルの7つの曲線で分けられた8つのチャンネル間をどう動くかをみた。生後l年間で同じチャンネルにいるものはl割に満たなかった。また,出生時10パーセンタイル未満であったものは6カ月時に10パーセンタイル未満であるものは1割に満たず,出生時25−75パーセンタイルであったものは,生後6カ月時に半数以上は上下のチャンネルに分散していた。推移の激しい6カ月までに比べ,6カ月以降はチヤンネル間の推移は少なかった。
          出生体重,妊娠期間の検討に関しては,出生体重の20,40,60,80パーセンタイル値を算出し,それらで分けた5群において,体重現量値の3,50,97パーセンタイル値を求めた。また月齢別の体重現量値ごとに月間増加量の3,50,97パーセンタイル値を求めた。妊娠期間については1週ごとのグループに分け,それぞれの現量値と月間増加量の中央値を求めた。
          結果
          出生体重別の体重中央値をみると,中央値の間隔はあまり変わらず,ほぼ平行することが分かる。また,月間体重増加量は全般的に月齢とともに減少していたが,対応する月齢の現量値別にみて3,50,97パーセンタイル値はそれぞれあまり変わらず,むしろそれぞれのパーセンタイル値の間隔は特に乳児期前半で広かった。現量値によっては全体的な体重増加量の様子はあまり変わらず,むしろ同じ現量値でも体重増加量に個人差がかなりあることが分かる。
          5つのグループに関して,97パーセンタイル値は乳児期前半で急速に広がり,生後6カ月には全例から計算した場合の間隔と変わらないほどになり,乳児期後半ではほぽ同程度の広がりで経過していた。生後数か月の間は体重増加の個人差が大変大きいことが分かる。
          妊娠期間別の体重中央値を,妊娠40週まで子宮内にいたと仮定した場合の修正月齢を横軸にとってプロットし,仁志田らによる日本人の胎内発育曲線につなげてみると,それぞれの妊娠期間別のグループの中央値は生後約2カ月程度ほぼ平行しており,これは,36週から42週までの妊娠週数別の中央値が,それぞれ間隔が等しくほぼ平行して走り,妊娠週数別の月間体重増加量の中央値が出生後2−3カ月の間各群で殆ど同じであることに対応している。また,修正してプロットした場合妊娠期間別体重中央値の曲線群は,修正月齢5カ月頃までに全体としてひとつの曲線にまとまる傾向が認められる。出生した時期が異なってもこの時期の間に何か調整する機能があることが示唆される。出生後は体重の増加が著しいのでその分増加量の分布も広がりがあるため,これがチャンネル間の推移をもたらしていると考えられる。通常の範囲の妊娠期間では,どの出生体重,妊娠期間のグループをとっても出生後2,3カ月は体重増加の速さが同じであることも大きな特徴であろう。

          3.双生児の身体発育

          浅香昭雄
          山梨医科大学

          わが国では大規模な双生児レジスターが存在しないこともあり,双生児の一般的な身体発育に関する基礎的な資料が充実しているとは言い難い。これまで双生児の身体発育は特に単産児と区別することなく行われているが,その理由は単産児との間に差が存在しないと言う積極的な根拠に基づくと言うよりも,むしろ双生児に関する知見が不足しているためである。
          そこで,我々の得ている資料をもとに双生児の身体発育を以下の3つの時期に分けて分析した結果の概要を述べたい。まず第一に,妊娠週数別の出生時身体計測値である。これは従来胎内発育と呼ばれているものに相当する。第二に,乳幼児期の発育である。そして第三に,6歳からll歳までの学童期である。対象はl982年度から1991年度までの10年間に東京大学教育学部附属中学校に入学志願した双生児557組(MZ 22l組,同性DZ 276組,異性 DZ60組),1114名(男子502名,女子6l2名)である。この分析対象は全体としてみれば乳幼児死亡等のない,正常な発育集団である。
          1.出生時の身体発育
          一般に双生児出産には各種の危険が伴い,母子ともにハイリスクであると言われている。まず,双生児出産に伴う各種リスク因子の頻度の分析結果を述ぺておく。妊娠37週未満の早期産は28%に見られる。骨盤位出産は全体の27%である。出生体重
          2500g未満の低出生体重児は52%に見られる。単産児におけるこれらの頻度はおよそ5%前後と言われており,双生児出産がハイリスクなものであることが伺えよう。
          身体計測値に関しては,妊娠週数を考えないときに,単産児との差は大きい順に体重(20〜25%),胸囲(8〜l0%),身長(5〜7%),頭囲(3〜4%)の順である。
          次に,妊娠週数別の身体発育の概略を述べる。妊娠週数別の出生体重を見ると,単産児の基準値と比較して33週以降急速に差が生じ,38週には単産児の発育基準値の-l.5 SDに接近する。その後は,-1.5 SDに接近したままである。-1.5 SD未満のlight-for-dates児の頻皮は29%である。
          身長に関しては,33−34週以降,徐々に差が生じ始め次第に単産児の,-1.5 SDに接近するが,その差は体重ほど大きいものではない。
          頭囲に関しては34週以降に徐々に差が見られるが,値としては単産児の平均値に近く,その遅れは身長よりも更に小さいものである。
          以上の様に,双生児の子宮内発育は単産児と大きく異なる事が明らかであるので。今後は双生児用の発育基準値の作成が望まれる。
          2.乳幼児期の身体発育
          乳幼児期は一生の内でも身体発育がめざましい時期である。従って,この時期の発育が順調であるか否かを知ることは,その後の発育経過を観察していく上でも必要不可欠である。従来,乳幼児の身体発育評価には厚生省がl0年毎に公表してきた乳幼児身体発育値が用いられている。そして,双生児の乳幼児期の身体発育評価は,単産児を主とする一般集団と特に区別されていない。この理由は前述のように,一般集団との差が存在しないことが確認されているためと言うよりも,双生児の乳幼児期の身体発育を検討したデータ自体がそれほど報告されていないためである。
          まず,双生児の乳幼児期の身体発育傾向を概説する。
          体重に関しては出生時には男女の間に右意な差は見られないが,2カ月以降に有意な差(男子>女子)が生じ,この傾向はほぽ3歳〜3歳6カ月まで認められる。実際の重量差では,2カ月−3カ月から1歳−l歳1カ月まではおよそ300g−500g男子が大きく,2歳−2歳6カ月で男女差が600gを越えるが,3歳−3歳6カ月で再び250g程度の差に減じる。4歳以降は女子の方が男子よりも大きい。出産順位(双生児の第1子と第2子)差は見られず,出生時に顕著であった卵性差(DZ>MZ)も出生後数カ月以内に消失している。
          身長に関しては,2カ月−3カ月までは男女の間に右意な差は見られないが,3カ月以降有意な差(男子>女子)が生じ,この傾向はほぼ2歳−2歳6カ月まで見られる。実測値としても1歳時までの身長差は1 cm前後であり,2歳−2歳6カ月で1.3 cmとなるが,3歳−3歳6カ月で再び,0.4 cmの差に減じる。4歳以降では,男子よりも女子の方が大きい。全ての時期を通じて出産順位差は見られない。
          次に,以上の身体測定値が一般集団と比較していかなるものであるかについて述べる。体重に関しては,その差は男女共に出生時に最大である。しかし,出生後の数カ月で急速にその差が縮まり,その後徐々に差が縮まっていく。この傾向は出生体重が小さいほど顕著である。一方,身長に関しても全体的な傾向は体重の場合と同じであるが,一般集団との差は出生時にも小さく,出生後のl年間である程度回復し,その後は緩やかに回復する。
          本対象に関する限り6歳−6歳6カ月の時点で一般集団との差は顕著に回復傾向を示したが,この傾向が一般の双生児集団に関しても当てはまるものであるか否かは更に注意深く検討すぺきである。しかし,少なくとも出生時に認められた差が良好に回復
          傾向を示すことは確実である。
          3.学童期の身体発育
          一般に6歳からll歳までの6年間,即ち小学生の時期(学童期)は心身共に比較的安定した時期であり,死亡率も一生を通じて最も低い時期と言われている。双生児と一般集団との間に認められた出生時の体重・身長の差は1歳時までに顕著に回復し,その後幼児期を通じて徐々に回復傾向を示す。学童期における双生児の身体発育状況がいかなるものであるのか,乳幼児期に減少傾向を示した一般集団との差は果たしてどの様に変化していくのかを概観することは学童期双生児の身体発育を評価する上で重要である。
          体重に関しては,9歳までは男子の方が女子よりも値が大きく,l0歳以降は逆に女子の方が男子よりも他が大きい。しかし,有意な差は見られない。また,出産順位差・卵性差は全ての年齢で見られない。一方,身長に関しても体重と同様の傾向が見らた。即ち,全ての年齢で出産順位差・卵性差は見られない。男女差に関しては,6歳から8歳までは男子の方が有意に大きく,l0歳,ll歳では女子の方が有意に大きい。
          次に,以上の身体計測値が一般集団と比較していかなるものであるかを述べる。体重に関しては,6歳−11歳を通じて一般集団との差は男女共に2%前後である。身長に関しては全ての年齢を通じて一般集団との差は男子で0−0.1%,女子で0−0.2%であり,一般集団との差は全く見られない。
          我々がこれまでの分析から得た結果を総合すると,乳幼児期を順調に経過した双生児では,学童期の体重・身長に関しては単産児との差はほぽ消失すると考えられる。従って,学童期双生児の体重・身長の発育の評価に当たっては特に単産児と区別する必要はないと結論できる。
          以上の様に,双生児全体としてみれぱ出生時の身体発育のハンディは予想されるほど長期的なものではないと考えられる。


          訃報 船川幡夫先生

          本年3月27日船川幡夫先生が逝去されました。享年81歳でした。先生のご経歴,ご功績については高石昌弘先生が学校保健研究(38:3−4,l996)に詳しく述べられていますので,ここでは船川先生と本分科会の関係に絞ってご紹介します。
          実は先生は本会発足の源泉ともいえる方でした。私事にわたって恐縮ですが,私が最初に先生にお目にかかったのは人類学修士課程の学生時代でした。当時,東大解剖学教室の故藤田恒太郎教授が成長談話会を主宰されていて,その会合が本郷の旅館で開かれ,そこに保志宏先生に連れられて参加した時でした。2度目は学位論文審査のときで,当時の医学部は指導教員は審査に加わらないという方針があり,研究内容に近かった教育学部の船川教授が主査だったのです。そして3度目は私が大妻女子大に移った後の1987年初めに船川先生が研究室にひょっこりお見えになったときです。ご来訪の目的は,「以前藤田先生がやっていたような成長談話会をつくって欲しい」ということでした。丁度その前年秋に人類学会会員で成長をやっている数人が集まり,成長研究会をつくろうと話し合ったところだったので,お調子者の私は直ちに船川先生のご堤案に乗り,高石,保志,鈴木継美の三先生にご相談の上,人類学と保健学の若手に呼びかけ,7月1日に「成長研究会」を発足させました。総勢22名,代表者は船川先生でした。
          先生のご希望は,この会は「研究会」ではなく,発育現象に関心を持つ者が「酒でも酌み交わしながらひと晩語り合う,藤田先生の成長談話会のような会」にしたいということでした。しかし時代の流れ,研究者気質の変化もあり,「研究」でないと人も集まりませんので,この会は先生にとって不本意な会になってしまったかもしれません。成長研究会は1993年5月までの6年間に7回のミーティングを持ち,同年10月10日には日本人類学会Auxology分科会に移行しました。その理由は公的な組織での発表でなければ研究業績にならないからです。これも先生にとっては古き良き時代の終焉になったかもしれず,申し訳なく思います。
          以上のような背景があり,船川先生は人類学会会員ではありませんでしたが本分科会のまさに生みの親でいらっしやいました。この2年ほどは拝顔しておりませんでしたが,昨夏の健康教育世界会議の会長としてご活躍されたお使りなどをいただいていましたので,まさかこのような訃報に接するとは思いもよらないことでした。先生のご冥福を心からお祈りいたします。(芦澤玖美)


          中国の成長研究者の紹介

          中国では体育や解剖の研究者が子どもの体の測定をしています。しかし,成長学の立場からの研究はこれからのようです。
          最近,2人の人がこのために来日されましたので,プロフィールをご紹介します。
          陳徳珍 CHEN Dezhen氏
          中国科学院古脊椎動物古人類研究所研究員。上海の復旦大学人類学教室出身。これまで恐竜の化石の研究をしてきました。これから生体学を始めたいとのことです。昨l995年6月に上海の小学校で40項目にものぽる膨大な計測を実施しました。中国科学院から派遣され,本年2月から5月まで大妻女子大学形態成長研究室でその資料を使って,成長データの処理,解析などのフルコース実習をしました。何でも吸収の迫力でした。
          徐 飛 XU Fei氏
          大連医科大学解剖学教室講師。大連医科大学出身。やはり昨l995年9月から大連市内の小,中,高等学校で測定をしました。日本学術振興会の招聘研究者として本年6月に来日,l2月に帰国の予定です。大妻女子大学形態成長研究室にてそれらのデータの処理,解析をし,現在結果の一部を連合大会発表に向けてまとめています。身長l82 cmのスリムな体ですが,暑さにもめげず,連日学問ひと筋の生活です。日本語がよくできますので。男性の会員はつき合って上げて下さい。

          お願い:会員諸氏の研究室にいる,外国から来た成長学者の紹介記事をぜひ投稿して下さい。(事務局)