第5回 Auxology 分科会研究会 199639日(土) 大妻女子大学

 

 

 乳幼児期の体重増加の特性

 

加藤 則子

 国立公衆衛生院

 

現在わが国では乳幼児の発育評価は厚生省乳幼児身体発育値を用いて行なわれることが多い。この発育値の使用上の注意には「この発育値は横断データによるもので,個々の例が実際にこのような曲線に乗って発育するのではない」という但し書きがついている。そこで,実際の乳児の発育状況の特徴をなるべく明確に描きだすことを目的としてこの研究を始めた。

この研究に用いられたデータセットは主に二つのデータセットからなる。一つは昭和35年から50年までに母子愛育会愛育病院で生まれ,保健指導部でフォローされ比較的データが揃っている約2千例であり,主にチャンネル間の推移の検討に用いている。

もうひとつは,平成元年度−3年度の厚生省心身障書研究「地域・家庭環境の小児に対する影響等に関する研究」の研究協力班「乳幼児の発育発達の縦断的研究」で集められたもので,全国53病院からの3,183例である。出生時期は平成元年の12月から平成2年の3月までを中心とした時期であり,計測間隔は2−3カ月が多く,3次スプライン関数によって補間し半月ごとの値を求めたものである。体格の推移に関しては厚生省身体発育値の3,10,25,50,75,90,97パーセンタイルの7つの曲線で分けられた8つのチャンネル間をどう動くかをみた。生後l年間で同じチャンネルにいるものはl割に満たなかった。また,出生時10パーセンタイル未満であったものは6カ月時に10パーセンタイル未満であるものは1割に満たず,出生時25−75パーセンタイルであったものは,生後6カ月時に半数以上は上下のチャンネルに分散していた。推移の激しい6カ月までに比べ,6カ月以降はチヤンネル間の推移は少なかった。

出生体重,妊娠期間の検討に関しては,出生体重の20,40,60,80パーセンタイル値を算出し,それらで分けた5群において,体重現量値の3,50,97パーセンタイル値を求めた。また月齢別の体重現量値ごとに月間増加量の3,50,97パーセンタイル値を求めた。妊娠期間については1週ごとのグループに分け,それぞれの現量値と月間増加量の中央値を求めた。

結果

出生体重別の体重中央値をみると,中央値の間隔はあまり変わらず,ほぼ平行することが分かる。また,月間体重増加量は全般的に月齢とともに減少していたが,対応する月齢の現量値別にみて3,50,97パーセンタイル値はそれぞれあまり変わらず,むしろそれぞれのパーセンタイル値の間隔は特に乳児期前半で広かった。現量値によっては全体的な体重増加量の様子はあまり変わらず,むしろ同じ現量値でも体重増加量に個人差がかなりあることが分かる。

5つのグループに関して,97パーセンタイル値は乳児期前半で急速に広がり,生後6カ月には全例から計算した場合の間隔と変わらないほどになり,乳児期後半ではほぽ同程度の広がりで経過していた。生後数か月の間は体重増加の個人差が大変大きいことが分かる。

妊娠期間別の体重中央値を,妊娠40週まで子宮内にいたと仮定した場合の修正月齢を横軸にとってプロットし,仁志田らによる日本人の胎内発育曲線につなげてみると,それぞれの妊娠期間別のグループの中央値は生後約2カ月程度ほぼ平行しており,これは,36週から42週までの妊娠週数別の中央値が,それぞれ間隔が等しくほぼ平行して走り,妊娠週数別の月間体重増加量の中央値が出生後2?3カ月の間各群で殆ど同じであることに対応している。また,修正してプロットした場合妊娠期間別体重中央値の曲線群は,修正月齢5カ月頃までに全体としてひとつの曲線にまとまる傾向が認められる。出生した時期が異なってもこの時期の間に何か調整する機能があることが示唆される。出生後は体重の増加が著しいのでその分増加量の分布も広がりがあるため,これがチャンネル間の推移をもたらしていると考えられる。通常の範囲の妊娠期間では,どの出生体重,妊娠期間のグループをとっても出生後2,3カ月は体重増加の速さが同じであることも大きな特徴であろう。