第5回 Auxology 分科会研究会 199639日(土) 大妻女子大学

 

 

  幼児の成長の時代変化と地域差

 

平塚 真紀子

 大妻女子大学人問生活科学研究所

 

 ヒトの体の大きさや形の違いには遺伝的要素や生活環境が要因としてあげられる。人間が成長していく過程で幼児期は成長が顕著な時期であり,しかもその後の思春期成長にも大いに関係があるにも関わらず,人類学的な研究は数少ないように思われる。そこで私たちは幼児の体格・体形がどのような特徴を持っているのかを調ベ,他の研究者の資料と比較し,性差・地域差・時代差などについて考察した。調査は1994年10月から1995年7月にかけて,千代田区内の5つの公立保育園で実施した。対象は1歳から7歳までの女児117名,男児130名である。この被験者の中には外国人10名,混血児5名も含まれている。被験者は上半身裸で,IBP法に準じて22項目を測定した。低年齢の被験者の中には測定を怖がり拒否する子どもがいたので,測定可能な項目のみデータとして採取した。

まず,臥位身長と立位身長の差について調べた。一般に言われるように臥位は脊柱が伸び,しかも子どもはX脚が多いので立位では白然に足を開いた状態で計測することになるため,当然立位身長より臥位身長の方が大きかった。この差は男児で平1.9 cm,女児で平均1.6 cmである。また,この差の臥位身長に対する比は年齢が進むにつれ小さくなるという傾向が認められた。

次に,千代田区内の性差についてノンバラメトリック検定(Wilcoxon)と,SDスコアの観察を用いて調べた。これらの結果から,頭部は男の方が大きく,皮下脂肪厚は女の方が厚く,腰囲,四肢の周長も女の方が大きいことが明らかになった。このことから千代田区では女児の体つきが幼いときから丸みを帯びているといえる。

地域差の比較には,埼玉県深谷市のさくらんぼ保育国の資料を用いた。この資料は本研究の測定年より13年前に行われたものであるが,すでに日本社会は安定期に入っているので,千代田区の子どもとの差は地域差と判断することにした。比較にはノンパラメトリック検定とSDスコアの観察を用いた。まず測定値では,男女とも千代田区の方が大きい項目が多いことが特徴的である。しかし,腰囲は男女ともさくらんぼ保育園の方が大きいという傾向がみられる。示数項目をみると,Body Mass Index,Rohrer Index,身長に対する周長は,さくらんぼ保育園の方が大きい。したがって,さくらんぽ保育園は千代田区に比べ丸みを帯びた体形をしていることになる。

時代差の比較には,小泉が1950,51年に測定した東京,千葉,神奈川の子どもの資料を用いた。小泉の年齢区分は国際的な年齢区分より0.5歳大きい方にずれているので,隣り合った2年齢グループの中間値を算出し,本研究の年齢区分に合わせた。したがって標準偏差が得られないため,統計的検定は行わず,SDスコアの観察を用いて比較した。その結果,45年前の子どもに比ぺ男女ともいずれの項目でも現在の子どもの方が大きいことが明らかである。特に身長,腸骨,棘高,上肢長などの長・高径に大きな時代差が認められた。反対に,頭部は他の項目に比ぺ時代差が小さく,このことは頭の大きさが他の部位に比べ45年間あまり大きく変化しなかったことを示す。また示数項目をみると,身長に対する長・高径は明らかに45年前の子どもの方が小さく。このことは四肢が相対的に短かったことを意味する。Body Mass Indexには大きな差がなかったが,Rohrer Indexは男女ともいずれの年齢でも45年前の子どもの方が大きいことが特徴的である。身長に対する周長や幅径もまた45年前の子どもの方が大きいため,現在の子どもは45年前の子どもより測定値は全ての項目で大きいが,体の形はほっそりとして華奢だと言うことがわかった。