第5回 Auxology 分科会研究会 199639日(土) 大妻女子大学

 

 

 双生児の身体発育

 

浅香 昭雄

山梨医科大学

 

 わが国では大規模な双生児レジスターが存在しないこともあり,双生児の一般的な身体発育に関する基礎的な資料が充実しているとは言い難い。これまで双生児の身体発育は特に単産児と区別することなく行われているが,その理由は単産児との間に差が存在しないと言う積極的な根拠に基づくと言うよりも,むしろ双生児に関する知見が不足しているためである。

そこで,我々の得ている資料をもとに双生児の身体発育を以下の3つの時期に分けて分析した結果の概要を述べたい。まず第一に,妊娠週数別の出生時身体計測値である。これは従来胎内発育と呼ばれているものに相当する。第二に,乳幼児期の発育である。そして第三に,6歳からll歳までの学童期である。対象はl982年度から1991年度までの10年間に東京大学教育学部附属中学校に入学志願した双生児557組(MZ 22l組,同性DZ 276組,異性 DZ60組),1114名(男子502名,女子6l2名)である。この分析対象は全体としてみれば乳幼児死亡等のない,正常な発育集団である。

1.出生時の身体発育

一般に双生児出産には各種の危険が伴い,母子ともにハイリスクであると言われている。まず,双生児出産に伴う各種リスク因子の頻度の分析結果を述ぺておく。妊娠37週未満の早期産は28%に見られる。骨盤位出産は全体の27%である。出生体重2500g未満の低出生体重児は52%に見られる。単産児におけるこれらの頻度はおよそ5%前後と言われており,双生児出産がハイリスクなものであることが伺えよう。

身体計測値に関しては,妊娠週数を考えないときに,単産児との差は大きい順に体重(20〜25%),胸囲(8〜l0%),身長(5〜7%),頭囲(3〜4%)の順である。

次に,妊娠週数別の身体発育の概略を述べる。妊娠週数別の出生体重を見ると,単産児の基準値と比較して33週以降急速に差が生じ,38週には単産児の発育基準値の-l.5 SDに接近する。その後は,-1.5 SDに接近したままである。-1.5SD未満のlight-for-dates児の頻皮は29%である。

身長に関しては,33?34週以降,徐々に差が生じ始め次第に単産児の,-1.5 SDに接近するが,その差は体重ほど大きいものではない。

頭囲に関しては34週以降に徐々に差が見られるが,値としては単産児の平均値に近く,その遅れは身長よりも更に小さいものである。

以上の様に,双生児の子宮内発育は単産児と大きく異なる事が明らかであるので。今後は双生児用の発育基準値の作成が望まれる。

2.乳幼児期の身体発育

乳幼児期は一生の内でも身体発育がめざましい時期である。従って,この時期の発育が順調であるか否かを知ることは,その後の発育経過を観察していく上でも必要不可欠である。従来,乳幼児の身体発育評価には厚生省がl0年毎に公表してきた乳幼児身体発育値が用いられている。そして,双生児の乳幼児期の身体発育評価は,単産児を主とする一般集団と特に区別されていない。この理由は前述のように,一般集団との差が存在しないことが確認されているためと言うよりも,双生児の乳幼児期の身体発育を検討したデータ自体がそれほど報告されていないためである。

まず,双生児の乳幼児期の身体発育傾向を概説する。

体重に関しては出生時には男女の間に有意な差は見られないが,2カ月以降に有意な差(男子>女子)が生じ,この傾向はほぽ3歳〜3歳6カ月まで認められる。実際の重量差では,2カ月−3カ月から1歳−l歳1カ月まではおよそ300g−500g男子が大きく,2歳−2歳6カ月で男女差が600gを越えるが,3歳−3歳6カ月で再び250g程度の差に減じる。4歳以降は女子の方が男子よりも大きい。出産順位(双生児の第1子と第2子)差は見られず,出生時に顕著であった卵性差(DZ>MZ)も出生後数カ月以内に消失している。

身長に関しては,2カ月−3カ月までは男女の間に右意な差は見られないが,3カ月以降有意な差(男子>女子)が生じ,この傾向はほぼ2歳−2歳6カ月まで見られる。実測値としても1歳時までの身長差は1 cm前後であり,2歳−2歳6カ月で1.3 cmとなるが,3歳?3歳6カ月で再び,0.4 cmの差に減じる。4歳以降では,男子よりも女子の方が大きい。全ての時期を通じて出産順位差は見られない。

次に,以上の身体測定値が一般集団と比較していかなるものであるかについて述べる。体重に関しては,その差は男女共に出生時に最大である。しかし,出生後の数カ月で急速にその差が縮まり,その後徐々に差が縮まっていく。この傾向は出生体重が小さいほど顕著である。一方,身長に関しても全体的な傾向は体重の場合と同じであるが,一般集団との差は出生時にも小さく,出生後のl年間である程度回復し,その後は緩やかに回復する。

本対象に関する限り6歳−6歳6カ月の時点で一般集団との差は顕著に回復傾向を示したが,この傾向が一般の双生児集団に関しても当てはまるものであるか否かは更に注意深く検討すべきである。しかし,少なくとも出生時に認められた差が良好に回復傾向を示すことは確実である。

3.学童期の身体発育

一般に6歳からll歳までの6年間,即ち小学生の時期(学童期)は心身共に比較的安定した時期であり,死亡率も一生を通じて最も低い時期と言われている。双生児と一般集団との間に認められた出生時の体重・身長の差は1歳時までに顕著に回復し,その後幼児期を通じて徐々に回復傾向を示す。学童期における双生児の身体発育状況がいかなるものであるのか,乳幼児期に減少傾向を示した一般集団との差は果たしてどの様に変化していくのかを概観することは学童期双生児の身体発育を評価する上で重要である。

体重に関しては,9歳までは男子の方が女子よりも値が大きく,l0歳以降は逆に女子の方が男子よりも他が大きい。しかし,有意な差は見られない。また,出産順位差・卵性差は全ての年齢で見られない。一方,身長に関しても体重と同様の傾向が見らた。即ち,全ての年齢で出産順位差・卵性差は見られない。男女差に関しては,6歳から8歳までは男子の方が有意に大きく,l0歳,ll歳では女子の方が有意に大きい。

次に,以上の身体計測値が一般集団と比較していかなるものであるかを述べる。体重に関しては,6歳−11歳を通じて一般集団との差は男女共に2%前後である。身長に関しては全ての年齢を通じて一般集団との差は男子で0−0.1%,女子で0−0.2%であり,一般集団との差は全く見られない。

我々がこれまでの分析から得た結果を総合すると,乳幼児期を順調に経過した双生児では,学童期の体重・身長に関しては単産児との差はほぽ消失すると考えられる。従って,学童期双生児の体重・身長の発育の評価に当たっては特に単産児と区別する必要はないと結論できる。

以上の様に,双生児全体としてみれぱ出生時の身体発育のハンディは予想されるほど長期的なものではないと考えられる。