発育期の骨と食生活

 筑波大学体育科学系 運動栄養学 麻見直美

 

 骨は、骨形成と骨吸収(骨破壊)を繰り返し日々代謝しながら、生涯を通してその量を大きく変化させる。骨量は20歳頃最大となり、その後、閉経および加齢に伴い減少する。骨は、生体内で種々の役割を演じているが、支持組織として重要な役割を担っている。骨量がある一定量以下になると、支持組織としての役割を充分に果たすことができなくなり、その結果、骨折の危険性が増す。骨折の発症頻度が加齢に伴い増加するのはこのためである。骨量の変化は生理現象であることから、閉経および加齢に伴う骨量減少により増加する骨折の予防には、若い時期に獲得する最大骨量をできるだけ高めておくこと、および加齢に伴う骨量減少をできるだけ抑制することが重要である。

 骨は、コラーゲンを主とするたんぱく質からなる基質に、リン酸カルシウムを主成分とする骨塩が沈着している。したがって、骨の代謝に大きな影響を及ぼす栄養素としては、たんぱく質、カルシウム、リンがあげられる。しかし、今日の食生活においてたんぱく質やリンの摂取が不足することはほとんどなく、カルシウム摂取の過不足が骨量に大きな影響を及ぼすこととなる。体重約3kgの乳児では、約30gのカルシウムを体内に保留しており、乳児期の体内カルシウム含有率は、0.9~1%である。生体のカルシウム含量が最も増加する時期は、急速に発育する生後約1年間(乳児期)で、その後の発育期における増加も著しく、発育・成長に伴い骨量は急激に増加する。骨は16歳頃完成期に達しその後充実して、成人期を迎える20歳頃最大骨量に達する。成人の体内カルシウム含有率は約2%で、体重50kgの人で約1kgのカルシウムを体内に保有することになる。骨が著しく発育する乳児期から学童期までの期間は、体重1kgあたりのカルシウム必要量は1718mgで、骨がほぼ完成に近づく16歳では1012mgである。成人では、骨量を維持するために、安全率を加味して1kgあたり10mgが必要とされている。また、正味のカルシウム吸収量は乳児期に最も高く、幼児期に少し減少し、その後思春期に再び増加し、青年期では減少するという。さらに、正味のカルシウム吸収量はカルシウム摂取量が多いほど上昇し、カルシウム出納も同様に上昇する。しかし、現在の日本人の栄養素等摂取状況をみると、平成13年度国民栄養調査成績結果にも示されるようにカルシウムは未だ所要量を充足していない。年代別では、男女ともに15歳~50歳代で充足しておらず、とくにその不足は若年者に顕著である。中学生・高校生時代は、乳児期に継いで体内へのカルシウム蓄積が多い時期であることから、如何にして充分なカルシウムを摂取するか重要な課題である。

牛乳はカルシウム含量が多く、さらにその吸収性も高い優れたカルシウム源であるが、消費動向調査および国民栄養調査結果に示されるように、15歳以降その摂取が急激に減少する。牛乳の摂取を如何に給食に依存しているかがわかる。小児期・青年期に牛乳摂取習慣があった者はなかった者に比べて成人期の骨密度が高いこと、および摂取量に依存して中高年期における骨量も高いことなどが報告されている。

また、小学生および中学生を対象に、給食のある日とない日の栄養素等摂取状況を比較した調査があるが、給食のある日はない日に比べ各栄養素等の摂取量が多く、全ての栄養素において所要量を充足しているが、給食のない日は摂取量が少ないばかりでなくカルシウム・鉄が不足していることが示されている。1年の内、半分以上の日は給食がないことから、家庭での日常の食生活の重要性が示唆される。

骨の主成分以外の栄養因子としてはエネルギー、脂質、マグネシウム、ビタミンADK、ビタミンCなども重要である。運動をはじめ体をよく動かすなどの刺激は骨の形成を促進し骨量増加に有効であることはよく知られているが、骨量の増加に有効な運動(身体活動)であっても摂取エネルギー量が不足すると骨量増加に対する運動の効果は期待されない。また、若年者において食事量が少なく痩せ傾向の者ほど骨密度が低いことが報告されていることからも、エネルギー摂取量の充足も重要で、とくに発育・成長期には食事量の不足には注意が必要である。また、カルシウム吸収および骨代謝に必須のビタミンDは、皮下において紫外線の作用でコレステロールから合成されることから、屋外で活発に遊ぶことも重要である。一方、骨に負の影響を及ぼす因子としては、食物繊維、食塩、カフェイン、フィチン酸などがある。骨の代謝には多くの栄養因子が関与していることから、過不足のないバランスのよい栄養素の摂取が必須である。

以上のように、骨の健全な発育にはしっかり食べて、よく体を動かすことが何よりも重要である。