成人身長を予測する

(c)Copyright 1996 高井省三

Predicting Adult Height
Shozo Takai, Univ. Tsukuba

Abstract
This report presented and compared three methods of predicting adult height from the data of elementary schoolchildren. The BTT method was of triple logistic model from height of serial 6 years at elementary school. The TW2 method was a multiple regression equation consisted of skeletal maturity score (RUS), height and chronological age at the age of 6th-year schoolchildren The KR2 method was a multiple regression equation including height, weight, chronological age of 6th-year schoolchildren and his/her mid-parents' height. The analysis was from subjects consisted of 178 boys and 149 girls and their parents from 1979 - 1995 Ogi Growth Study. Adult height of a child was judged by an annual increment less than 1.0 cm. The skeletal maturity increased the accuracy of predicting adult height. Correlation coefficients of predicted adult height to observed adult height for boys were 0.847, 0.862 and 0.778 respective to methods BTT, TW2 and KR2. The coefficients for girls were 0.773, 0.828 and 0.712, respectively. Although the correlation for TW2 method was significantly higher than that of KR2 method for girls, no significant difference was found the coefficients between TW2 and BTT methods, and between BTT and KR2 methods. Boys showed no significant differences of the coefficients among the methods. Residuals between the predicted and observed adult heights for boys were -1.40±3.71 cm for BTT method, 0.71±3.23 cm for TW2 method and 0.00±3.97 cm for KR2 method. The residuals for girls were -0.92±3.04 cm, 0.20±2.64 cm and -0.04±3.18 cm respective to BTT, TW2 and KR2 methods.

1.はじめに
成人身長を予測する簡単な方法は両親の身長を使ったtarget height(Tanner et al., 1970;緒方ら,1990)がある。この方法は身長の高い遺伝性に基づいているが必ずしも正確なものとはいえない。より精度の高い成人身長推定法は骨成熟に基づくものがある。
身長の97〜98%は骨格要素が占める。下肢の長管状骨の両端にある軟骨板の一方で軟骨 が増殖し他方で成熟した軟骨がてに置き換わっていくと結果として骨の長さが大きくなる−すなわち身長が伸びる。手と手首の骨にみるこの成熟度をスコアあるいは年齢として評価したものが骨成熟あるいは骨年齢である。この骨成熟(骨年齢)に基づいて成人身長を予測しようという方法(Bayley and Pinneau, 1952;Roche et al. , 1975;Tanner et al., 1983;多田羅,1989;松岡ら,1994;高井,1995)は現在のところもっとも精度の高いものといえる。しかし,この方法の欠点は生体に,わずかではあるが,X線を照射しなければならないことである。
骨成熟(骨年齢)を使わずにそしてtarget height法よりも精度の高い成人身長推定法が開発されてきている。BTT法は身長の個人追跡資料に三重ロジスティック曲線を当てはめて成人身長を推定する方法である(Bock et al, 1994)。KR法は身長,体重,両親の平均身長から成人身長を推定するものである(Khamis and Roche, 1994)。
本報告は日本人児童についての3種類の成人身長予測式の精度を比較している。ここで比較する推定式は1) 小学校6年間の身長,2) 小学校6年生時の骨成熟・身長・年齢,3) 小学校6年生時の身長・体重・年齢・両親の身長,を説明変数とするものである。

2.被験者と方法
2.1 被験者
被験者は1972〜1977年度生れの「小城成長研究」からの男子178名,女子で149名から 成る。小城成長研究は1979年から1995年にかけて佐賀県小城町の1校区の小・中・高等学校の児童・生徒の身体計測を行なった縦断的成長調査である。被験者の延べ数は1万人を越えている。調査項目は身長,体重をはじめとする31の身体計測項目,手骨X線撮影,初潮年齢アンケートである。さらに240家族で両親について11項目の身体計測を実施している。小城町は1985年には人口14,595人を数え,国勢調査の結果から見ると被験者は中流以上の社会経済状態の家庭に育っていることが分かっている。
2.2 測定項目
3つの成人身長推定式を求めるために,小学校6年間の身長,体重,座高,骨成熟スコアを選び出した。児童の両親の身長は直接に計測した値を使っている。さらに女子については初潮年齢をアンケートにより求めた。成人身長は身長の年間最大増加量が1cm未満になったときの値をあてた。骨成熟はTW2法(Tanner et al., 1983)で判定し,手首の骨を除く管状骨の骨成熟を評価するRUSスコアを採用した。
2.3 方法
3つの成人身長推定式は,1)小学校6年間の身長をBTTモデル(Bock, du Toit and Thissen, 1994)に当てはめるもの,2)TW2 RUSスコア,身長,暦年齢を説明変数にもつ予測式(高井,1995),3)小学6年生時の年齢,身長,体重,座高および両親の平均身長を逐次選択法(変数増減法)で変数を選んだ重回帰式である。結果的にこの式はKR法が採用した身長,体重,両親の身長を最良説明変数としてもつものである。

3.結果と考察
3.1 新予測式(KR2法)の算出
始めに骨成熟要因を含まない予測式を新たに求めた。観測された成人身長を予測変数として小学6年生時の年齢,身長,体重,座高および両親の平均身長を説明変数としてこれらの説明変数を追加・削除していきながら重回帰式を求めた。最良の重回帰モデルはAICが最小になる式とした。AICはケチの原理−なるべく少ない変数でなるべく多くの情報を得る−に基づくモデルの当てはまりの良さを表す指標であり,もっとも小さいAICがもっともよいモデルをあらわす(SAS Institute Inc., 1995)。
AICは男女ともに,成人身長予測式は暦年齢,身長,体重,両親の身長からなるモデルが最良であることを示した。身長を構成する座高はモデルの構成に貢献しなかった。この式がもつ説明変数はKhamis and Roche (1994)のそれらと同じものになった。成人身長の予測式(KR2法)は小学校6年生時の次のパラメータからなる:

男子の予測成人身長=25.13−2.594×暦年齢+0.656×身長−0.174×体重+0.545×両親の平均身長,
女子の予測成人身長=72.73−3.618×暦年齢+0.580×身長−0.192×体重+0.309×両親の平均身長。

男子のこの式の精度は,重相関係数=0.606,残差=3.97(cm)であった。女子でのこれらの指標は,重相関係数=0.506,残差=3.18(cm)であった。
KR法(Khamis and Roche, 1994)の4.0〜17.5歳の米国白人児童の式では男子の残差は2.16±0.55cm,女子のそれは1.67±0.65cmである。本報告に相当する11〜12歳の残差は男女共におよそ2cmである。
3.2 予測式の精度の比較
Table 1は3つの成人身長予測式が算出した推定成人身長と実測成人身長のずれ(残差SD,相対残差%SD)を示している。男女共にBTT法での予測成人値は実測成人値よりも大きな値を示した。これはBTT法の予測成人値が21歳時の身長を予測しているああろう。米国白人については,本報告が採用した規準−年間増加量が1cm未満−になった時点から身長の成長が停止する時点(男子21.2歳,女子17.3歳)までの間に男子では1.0 cm,女子では1.5 cmの身長の伸びがある(Roche and Davila, 1972)。

Table 1. Residuals of the equation
MeanSD%SDN
BoysBTT-1.403.712.21118
TW20.713.231.86116
KR20.013.972.31106
GirlsBTT-0.923.041.94149
TW20.202.641.66126
KR2-0.043.172.01127

残差および相対残差でみると,男女共に骨成熟を説明変数に取り込んだTW2法が最も当 てはまりが良く,KR2法の精度が低い。この3cm前後の残差は11歳の児童の身長に対 してはおよそ2%に相当している。モデルの精度を予測値と実測値の相関係数の2乗である重相関係数で見てもTW2法の精度が高いことが分かる(Table2の太字の数値の2 乗)。

Table 2. Correlations among observed- and predicted adult height (Boys: upper triangle, Girls: lower triangle).
 ObsBTTTW2KR2
Obs 0.8470.8620.778
BTT0.773 0.8210.831
TW20.8280.773 0.867
KR20.7120.7010.752 

Table 2に実測成人身長(Obs)と3つの推定成人身長の相関係数を示した。女子ではKR2法の成人身長は他の方法の成人身長とは低い相関を示しているが,男子についてはこの傾向は見えない。これらの相関係数の大きさの差を2つの成人身長推定式の組み合わせごとに検定した。t検定の結果は,男子の相関係数は全ての組み合わせで有意な差を示さなかった。女子では,KR2法とTW2法との間で有意な相関係数の差があった。そのほかの組み合わせ間には相関係数の差は出なかった。
3.3 予測式の交差試験
これらの成人身長予測式の妥当性をより正確に検討するには,本報告の被験者とは別の集団にここでの予測式を当てはめたときにどれくらいの誤差が生ずるかを調べることである。しかしながら,このような交差試験(cross-validation)の対象となるデータは非常に少ない。ことに両親の身長をそなえたデータは皆無である。 Table 3と4は身長,成人身長,骨成熟のデータを備える仙台市の男女児童(佐藤と三谷,1994)と東京都の女子(江藤と芦澤,1992;Ashizawa et al., 1994)にTW2法(高井,1995)による予測式を当てはめたときの交差試験の結果である。縦断的成長研究の持つ困難さから被験者数は比較試験にかならずしも十分とはいえない。とくに男児の結果はいずれの予測式も8cm前後の予測誤差を示した。この仙台市の男児は9〜12歳の年齢集団からなっている。年齢別に相対予測誤差を算出してみると,11歳以外の年齢集団ではいずれの予測式でも2〜3%であった。したがって,この11歳男児の資料は何らかのサンプリングの偏りがあると考える。いっぽう女児ではどのTW2法においても4cm前後の予測誤差である。

Table 3. Cross-validation of TW2 equation for 11 years children
TakaiTataraTannerMatsuoka
Sendai Boys (N=10)Mean3.124.17-1.581.00
SD8.608.308.167.22
%SD4.844.644.684.36
Sendai Girls (N=21)Mean0.771.88-2.39-2.49
SD4.124.364.746.00
%SD2.542.632.983.79
Tokyo Girls (N=39)Mean2.241.39-1.09-0.35
SD3.964.023.424.21
%SD2.492.532.222.68

Table 4. Cross-validation of TW2 equation for 12 years children
TakaiTataraTannerMatsuoka
Sendai Boys (N=9)Mean0.242.11-3.83-1.86
SD9.349.237.677.08
%SD2.933.384.632.31
Sendai Girls (N=18)Mean0.421.44-2.09-0.53
SD3.344.144.143.70
%SD2.102.602.632.32
Tokyo Girls (N=25)Mean1.571.95-0.660.83
SD3.334.593.214.76
%SD2.072.902.043.02

4.おわりに
小学校6年間の身長,体重,骨成熟および成人身長,両親の身長が完備している日本人児童の縦断的成長資料(男児178名,女児149名)をつかって3種類の予測式に基づいて成人身長を予測した。方法は小学校6年間の身長から(BTT法),小学校6年時の身長,骨成熟,年齢から(TW2法),そして小学校6年時の身長,体重,年齢,両親の平均身長(KR2法)から成人身長を予測するものである。骨成熟を説明変数として取り込んだTW2法が最も予測精度が高く,ついでBTT法が次に高い精度を示し,KR2法が続いた。
骨成熟を取り込んだ高い精度の予測式を健常児の成長研究に使用するにはいくつかの問題がある。たとえわずかな被曝量(胸部間接撮影のおよそ1/8)ではあるが,生体に与える放射線のリスクは無視できない。さらに,X線写真は国家資格持つ医療従事者でなければ撮影できないという制約がある。このような点から,次善の成人身長予測式としてはBTT法によるものをあげる。小学校6年間の身長データを収集するのはそれほど困難ではないであろう。一時点でのデータに基づくKR2法も簡便ではあるが,両親の身長データを直接計測しないで聞き取り調査に基づいたときのモデルの精度は低下せざるを得ないであろう。

参考文献

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(第50回日本人類学会・日本民族学会連合大会,佐賀,1996.10)