骨成熟が早熟な子の成人身長は小さいか?

(c)Copyright 1996 高井省三

この研究は1,230人の児童生徒(6.5〜17.5歳)の縦断的成長資料から身長成長と骨成熟を分析している。まずはじめに成人身長と骨成熟完了に焦点をあてた。身長の97〜98%は骨の要素で決まる。身長,特に下肢を構成する大腿骨,脛骨はチューブ状の骨である。これらの骨の長さの成長は膝に近い方の端にある骨端軟骨で軟骨が骨に置き換わっていくプロセス−すなわち骨成熟−によっている。骨成熟と骨成長は同じに始まり,同時に終わる。だから,骨成熟が早期に完了すると身長は伸びなくなる。このよう従来からの仮説を検討した。
結果的に成人身長は骨成熟完了年齢との間に男子でr=0.02,女子でr=-0.01という相関係数しか示さなかった。すなわち仮説を受け入れることはできなかった。しかし,骨成熟完了年齢と身長最大増加(PHV)年齢およびPHV時の骨成熟速度とのから次のことが分かった:思春期に身長が大きく伸びた子ども,さらに身長が最大に伸びているときの骨成熟の速度が速い子どもはより早い骨成熟の完了を迎える。つぎに身長成長と骨成熟経過の関係をみた。
身長最大増加の時期だけに,弱いながらも,骨成熟速度が速い子どもは低い成人身長にとどまるという関係が見えた。身長の成長速度と骨成熟速度の関係を年齢で追ってみると次のことが明らかになった:両者の関係は思春期までは次第に正の相関関係が強くなっていくがPHV期に向かっては弱まり,PHV期以後は負の相関関係になっていく。このようなPHV期前後での骨成熟と身長成長の関係の逆転現象は成長・成熟に関係したホルモンの分泌機序に対応している。すなわち成長ホルモン・インシュリン様成長因子から性ホルモンへの切り替わりである。そして体液性調節機構が身長成長にネガティブ・フィードバックをかけて骨成熟度に応じて個人の最終ターゲットである成人身長をコントロールしていると考えた。

(筑波大学体育科学系紀要 19:91-97,1996)