TW2骨成熟評価法による成人身長の予測
(c)Copyright 1996 高井省三
はじめに
骨成熟評価の応用例のひとつに小児科学の臨床,職業の選択,スポーツタレント発掘の分野での成人身長の予測がある(1, 2)。多田羅はTW2骨成熟評価法1)の20-bone骨年齢を使った成人身長予測式を日本人児童について求めた(3)。しかし,多田羅式の適用範囲は,9.0〜15.5歳と広くはない。
私は本研究でTW2骨成熟評価法による日本人児童の新たな成人身長予測式を示す。つぎの点を検討しながら重回帰分析をおこなって予測式を作成した:1)適用年齢範囲の拡大,2)予測式に取り上げる説明変数の検討,3)予測式の信頼性のクロスチェック。
被験者と方法
被験者は1979〜1993年の「小城成長研究」(4)に参加した男子256名(のべ1692名),女子178名(のべ1496名)の5.5〜17.5歳の児童・生徒である。この縦断的成長資料は身長,暦年齢,手部X線フィルム,成人身長,初潮年齢を完備している。
骨成熟はTW2法1)によって評価した。骨成熟指標としてはTW2 RUSとTW2 20-boneのグループについて,それぞれスコアと骨年齢の4つをとりあげた。TW2 Carpalスコアの評価年齢限界は高々11〜13歳(4)なので除外した。成人身長は年間増加量が1cm未満になった時点の身長とした。
被験者を年齢群に区分するときは1年間隔をとり,中央年齢(6±:5.50〜6.49,...)でまとめた。重回帰式の基本モデルは,
予測成人身長=β0+β1・身長+β2・暦年齢+β3・骨成熟指標
とした。骨成熟指標は前述の4つのスコア,骨年齢のいずれかである。さまざまに階層化した集団で求めた重回帰式をAIC値(5)によって比較した。
結果
年齢別の予測式の必要性を検討した。Tanner式(1)のように説明変数に暦年齢を取り上げるならば,さらに年齢別の予測式を求める必要があるだろうか?男女別,女子はさらに初潮の有無別に層別化した集団について,年齢別と年齢を混みにした集団での重回帰式を比べた。年齢を混みにした時の重回帰式の最小AIC値は,男子で3984〜4606.7,未潮女子で2228.4〜2339.1,既潮女子で183.8〜385.7であった。これに対して年齢別に分けたときの最小AIC値は,男子で-107.4〜449.1,未潮女子で59.2〜377.0,既潮女子で-47.0〜107.9であった。あきらかに,いずれの骨成熟指標別,性別,初潮別の集団においても年齢で層別化した予測式のほうが成人身長の推定精度は高いことを示している。
初潮の有無別の予測式の必要性を検討した。初潮の有無別に区分して求めた予測式と,初潮の有無を混みにした予測式を年齢別に計算し,最小AIC値を比較した。初潮前の女子の予測式の最小AIC値は59.2〜382.5であった。この集団で初潮の有無を混みにして計算したときの最小AIC値は113.8〜409.7であった。いっぽう,初潮後の女子の予測式の最小AIC値は-47.0〜107.9であった。この集団で初潮の有無を混みにして計算してみると最小AIC値は-37.5〜337.8であった。年齢別に詳しく見ると,初潮の有無の要件は12〜13歳の年齢群でおおきく予測式の精度に違いを生じさせている。この年齢付近での初潮頻度を見ると,11歳で8.7%,12歳で36.6%,13歳で78.3% ,14歳で93.2%となっていた。初潮頻度に大きなバラツキがでる12歳〜13歳では,初潮の有無別求めた予測式は,初潮を混みにした予測式よりも高い精度を示した。
RUSスコア,20-boneスコア,RUS骨年齢,20-bone骨年齢のどれが最適化を検討した。ここまでの検討で,いずれの骨成熟指標でみても,成人身長の予測式は年齢別,初潮の有無別に求めた方が高い精度を示すことが分かった。そこで,性別,年齢別,初潮の有無別に区分したグループで身長,暦年齢に加え4つの骨成熟指標を一つづつ取り入れてステップワイズ重回帰分析を施した。こうして最良の説明変数の組み合わせをもつ最良予測式を最小AIC値を指標として探した。
男子では,6〜17歳の各年齢群の予測式は身長,暦年齢,骨成熟指標の3変数を取り込んだ式が最良であった。骨年齢指標の比較では,RUS骨年齢よりもRUSスコアを,20-bone骨年齢よりも20-boneスコアを取り入れた式の精度がより小さなAIC値を示した。最良予測式は6〜10歳,14〜15歳の各年齢群では20-boneスコアを取り入れた式であった。11〜13歳,16歳の各年齢群の予測式はRUSスコアを取り入れた式が最良であった。しかし,17歳の年齢の予測式は20-bone骨年齢を取り入れた式が最良であった。
初潮前の女子の各年齢群の最良予測式の説明変数には男子のように一定したパタンを示していない。6,8,9,11歳の各年齢群の予測式はRUSスコアを取り入れた式が最良であった。7歳の年齢の予測式は20-boneスコアを取り入れた式が最良であった。10,12歳の各年齢群の予測式は20-bone年齢を取り入れた式が最良であった。13歳の年齢の予測式はRUS年齢を取り入れた式が最良であった。
初潮後の女子では,12〜14歳の各年齢群の予測式は20-boneスコアを取り入れた式が最良であった。15,16歳の各年齢群の予測式はRUSスコアを取り入れた式が最良であった。
考察
村田ら(6)はTanner方式(1)に対して,日本児童に当てはまる独自の骨年齢変換表をつくり,RUSを標準骨年齢とすることを提唱した。その理由は,1)RUS曲線が滑らかであった,2)Carpalの成熟評価はより困難,3)Carpalの個人成熟段階にヴァリエーションが多い,とのことである。その結果,TW2骨成熟評価法には原法と日本法の2つの骨年齢が存在することになった。多田羅(3)の予測式で使われている20-bone骨年齢はTanner法のそれである。いずれの方法にせよ,TW2骨年齢を求めるにははじめに求められるTW2骨成熟スコアを換算するという余分な手順が必要である。20-bone骨成熟は評価が困難であり,評価年齢の範囲が狭いCarpal骨成熟を含んでいる。しかし,本研究でAICが示した最良の予測式は全年齢群に共通した説明変数を備えなかった。このような式を実際に応用するには煩雑であり,間違いを起こしやすい。そこで,本研究は次善の予測式として年齢,身長,RUSスコアを説明変数とする重回帰式に統一したものをしめす(表1)。
予測式の妥当性を検討した。予測式を計算した集団以外のデータ(7, 8)に求めた予測式に当てはめるクロスチェックを試みた。比較した式はTanner式(1)と多田羅式(3)である。3つの式の適用年齢範囲の共通部分を取り出し,9.00〜15.49歳の245名の東京女児のデータを準備した。初潮別,年齢別に表1の式を当てはめ,平均偏差,予測誤差,相対予測誤差を比較検討した。総合的に見ると,上の指標は表1式では0.90cm,2.87cm,1.80%;多田羅式で-0.07cm,3.24cm,2.06%;Tanner式で-0.92cm,2.91cm,1.87%であった。本研究の予測式は,年齢階級を1歳刻みにしているが,Tanner式,多田羅式よりも良い成績を示した。
文献
- Tanner,J.M., Whitehouse,R.H., Cameron,N., et al. : Assessment of skeletal maturity and prediction of adult height (TW2 method). 2nd Ed., London, Academic Press, 22--37, 1983.
- 大槻文夫,百鬼史訓,植竹照雄他:ジュニア選手の骨年齢と運動能力について。平成2年度日本体育協会スポーツ医・科学研究報告 No。IV 日本人青少年のTW II骨年齢の標準化に関する研究−陸上競技ジュニア選手の体力に関する日中共同研究より−,東京,日本体育協会,40--44,1991。
- 多田羅裕子:小児期の最終身長予測に関する研究 第1編 日本人小児の最終身長予測式について。日児誌 93:238--243,1989。
- 高井省三:Tanner-Whitehouse 2 (TW2) 法による平滑化骨成熟曲線とその応用。解剖誌 65:436-447,1990。
- 赤池弘次:情報量基準AICとはなにか。その意味と将来への展望。数理科学 14(3):5-11,1976。
- 骨成熟研究グループ(代表 村田光範):日本人標準骨成熟アトラス −TW2法に基づく−。東京,金原出版,1993。
- 江藤盛治,芦澤玖美:東京の女子の身体成長と骨成熟の縦断的観察。−手のX線図譜とTW2法による評価−。東京,てらぺいあ,1992。
- Ashizawa K, Kato S, Eto M.:Individual adolescent growth of stature, body weight, and chest circumference of girls in Tokyo.Anthrop Sci 102: 421-446, 1994.
表1.TW2骨成熟評価法による日本人の成人身長予測式(R2:重相関係数,N:例数)
男子
-----------------------------------------------------------
Age RUS
class Height Age score Const Resid R2 N
-----------------------------------------------------------
6± 1.406 -7.331 -0.0770 68.340 3.61 0.636 39
7± 1.152 -5.648 -0.0585 84.695 3.51 0.672 105
8± 1.103 -4.934 -0.0529 84.332 3.42 0.663 123
9± 1.032 -5.127 -0.0440 93.302 3.31 0.702 130
10± 0.991 -5.043 -0.0419 98.800 3.32 0.680 138
11± 1.007 -4.098 -0.0517 90.679 3.13 0.724 143
12± 0.994 -3.463 -0.0505 85.772 3.08 0.729 165
13± 0.879 -2.798 -0.0429 91.860 3.17 0.722 178
14± 0.876 -2.998 -0.0248 85.745 2.59 0.811 178
15± 0.976 -1.673 -0.0125 43.032 1.59 0.930 199
16± 1.006 -1.323 -0.0054 26.405 0.95 0.976 181
17± 1.009 -0.432 -0.0009 7.139 0.53 0.994 86
-----------------------------------------------------------
女子(初潮前)
-----------------------------------------------------------
Age RUS
class Height Age score Const Resid R2 N
-----------------------------------------------------------
6± 1.180 0.000 -0.0408 35.670 2.79 0.690 54
7± 1.203 -7.039 -0.0429 77.967 2.76 0.735 155
8± 1.166 -5.845 -0.0458 75.805 2.77 0.737 164
9± 1.124 -4.029 -0.0435 65.863 2.62 0.772 172
10± 1.023 -3.696 -0.0377 74.008 2.84 0.719 172
11± 0.988 -2.317 -0.0407 66.645 2.90 0.717 157
12± 0.908 0.000 -0.0388 49.975 2.60 0.757 111
13± 0.915 0.000 -0.0291 41.3302 2.12 0.805 38
-----------------------------------------------------------
女子(初潮後)
-----------------------------------------------------------
Age RUS
class Height Age score Const Resid R2 N
-----------------------------------------------------------
12± 0.950 -2.708 -0.0186 59.764 1.60 0.924 64
13± 1.002 -1.461 -0.0137 33.403 1.37 0.935 137
14± 1.018 -0.350 -0.0098 12.893 0.89 0.977 124
15± 1.017 0.000 -0.0056 3.685 0.73 0.984 81
16± 0.996 -0.810 0.0000 14.206 0.54 0.988 33
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(AUXOLOGY 2: 47-9, 1995)