手足が大きい子どもは大きな大人になるか?

(c)Copyright 1998 高井省三・高関じゅん

はじめに
 私たちの研究は「この子は足が大きいから将来大きな背丈になる」という言い伝えを手がかりにしている。私たちは,この言い伝えを解析することで四肢末端部の成長から成人身長の予測可能性の問題あるいは全体と部分の成長の関連性という問題として展開できるのではないかと考えた。
 このテーマに関連した報告はそれほど多くはない。成人値に対するパーセント身長とパーセント手長の成長パターンの縦断的解析は両者の成長パターンは男子ではほとんど重なっていると報告している1)。しかし,女子では,10歳まではパーセント手長がパーセント身長を上回るが以後は逆転している。足長についての縦断的研究2)は,大きな成人身長を示した子どもの足長の成長曲線は小さな成人身長を示した子どもの足長の成長曲線を上回ること,をあきらかにした。足長の成長の完了のタイミングは身長よりも早いことが報告されている2, 3)。人類学的見地から性差,人類集団差を論じた報告4)や法医学の見地から,米国陸軍軍人について足長から身長の予測式を作成した5)報告は身長と足長の成長の関係は回帰分析によって論じている。
 しかし,成人身長の予測を念頭に置いて,四肢末端部の手足の大きさから成人身長の関係を論ずるにはこれらの報告では不十分である。そこで,まずこの言い伝えを検証するために,私たちは日本人児童・生徒の縦断的資料に基づいて手長,足長と身長の成長の相互関係を相関分析を通じて分析してみた。

被験者と方法
 被験者は小城成長研究6)からの女子328名,男子305名から成る。児童・生徒は1964〜77年生まれである。被験者には縦断的に4〜13回の年1回の計測資料が備わっており,分析の対象となった計測値は成人値に達している。約80%の被験者は8回以上の計測調査に参加している。
 身長,手長,足長を次の方法7)で計測した。手長は手背側で橈骨・尺骨の茎状突起先端を結ぶ線分の中点から第3指の先端までの直線距離を計った。足長は両足荷重で,最も前方に突出している指先の点と踵の最後方突出点との直線距離を計っている。
児童・生徒の年1回の計測データから各測度の現量値成長曲線を描き,数値を編集した。各項目の成長完了時の値は成長曲線がプラトーに達したときの値とした。成人値を得るために,成長曲線の平滑化,補間はおこなっていない。身長については,成長曲線がプラトーに達する前に年間増加量が1 cm未満になったときはその時点の値を成人値とした。各項目の年齢別のパーセント成人値はこの成長完了時の値に基づいている。

結果と考察
 はじめに,手足が大きいということをからだ全体に対する相対的な大きさとみなして分析した。各年齢毎に身長現量値に対する比手長,比足長を求めて成人身長との相関をみた。男女とも各年齢群でのすべての相関係数は5%水準で有意ではなかった。すなわち,身長現量値に対する比手長,比足長は成人身長と無相関であった。「足が大きい子どもは将来大きな背丈になる」という言い伝えが本当ならは手足の身長に対するプロポーションの大きさを見て言っているのではないということになった。

図1.手長,足長,身長の成熟曲線

 ついで,手足が大きいということを成人値に対する割合と解釈して解析した。言い伝えは親が語り継いでいるようなので,彼らは子どもが成人した時点から子どもの成長過程を振り返って見ている,と考えるとパーセント成人値としての手長・足長をみていたのかもしれない。そして,そのパーセント成人値の成長パターンと身長の成長パターンの間に何らかの関連を想定していたのかもしれない。そこで,手長,足長,身長のパーセント成人値の成長,すなわち成熟度を比較した(図1)。男女ともにパーセント手長はパーセント身長とほとんど変わらない成長パターンを示す1)。女子では10歳までは身長よりもわずかに先行して成長するが,13歳以降は身長が手長よりも先行して成熟していく。いっぽう,足長の成熟度を身長の成熟度と比較すると,足長は常に身長に先行して成熟していることが分かった。両者の関係は,女子では7〜12歳までは両者の相関は高いが13歳以降は弱い相関か無相関であった(表1)。いっぽう男子では,7〜14歳までは両者の相関は高いが15歳以降は弱い相関か無相関の関係を示した。さらに,この四肢末端部の成熟過程と身長成熟時の絶対的なサイズの関係,つまり,成人身長との関係はどのようになっているのかを分析した。結果は,言い伝えの予想に反して,男女ともにいずれの年齢群でも手長,足長のパーセント成人値は成人身長とは無相関であることを示した。すなわち,手足の成熟が早いということから大きな成人身長を予想することはできない。

表1.成人値に対するパーセント手長・足長とパーセント身長の相関

女子

男子

年齢

手長

例数

足長

例数

手長

例数

足長

例数

0.244

43

0.700

**

69

0.270

39

0.667

**

54

0.472

**

129

0.783

**

191

0.365

**

96

0.789

**

133

0.551

**

147

0.842

**

212

0.602

**

113

0.774

**

148

0.581

**

166

0.841

**

235

0.559

**

119

0.780

**

155

10±

0.754

**

183

0.880

**

258

0.656

**

130

0.831

**

167

11±

0.773

**

201

0.867

**

273

0.706

**

139

0.863

**

178

12±

0.690

**

208

0.827

**

278

0.825

**

149

0.904

**

195

13±

0.448

**

220

0.574

**

292

0.838

**

159

0.898

**

205

14±

0.265

**

215

0.219

**

282

0.672

**

157

0.825

**

200

15±

0.033

222

0.001

286

0.387

**

170

0.603

**

212

16±

0.058

203

0.087

267

0.225

**

159

0.309

**

200

17±

0.171

*

192

0.003

255

0.082

159

-0.084

198

18±

0.241

*

104

-0.062

133

0.071

123

-0.083

157

** はP=0.01で,* はP=0.05で有意な相関係数を示す

 言い伝えでの手足の大きさとは,同年齢の子どもを比べた時の大きさを意味するのであろうか? 各年齢での手長と足長の絶対値と成人身長の関係を調べてみると,男女いずれの年齢群でも手長と足長の絶対値と成人身長の関係は中程度から高度の相関関係を示した(表2)。

表2.手長・足長の現量値と身長の現量値の相関

女子

男子

年齢

手長

例数

足長

例数

手長

例数

足長

例数

0.577

**

55

0.704

**

79

0.670

**

62

0.769

**

75

0.623

**

157

0.729

**

219

0.675

**

142

0.819

**

182

0.632

**

184

0.780

**

242

0.686

**

173

0.808

**

209

0.667

**

207

0.779

**

269

0.709

**

183

0.795

**

223

10±

0.725

**

230

0.765

**

292

0.725

**

206

0.813

**

243

11±

0.736

**

257

0.740

**

309

0.784

**

221

0.817

**

263

12±

0.669

**

273

0.668

**

316

0.843

**

245

0.836

**

289

13±

0.590

**

284

0.627

**

331

0.839

**

265

0.822

**

304

14±

0.600

**

281

0.630

**

319

0.731

**

270

0.765

**

300

15±

0.623

**

271

0.680

**

310

0.680

**

282

0.719

**

321

16±

0.603

**

229

0.664

**

280

0.702

**

249

0.770

**

285

17±

0.628

**

214

0.651

**

265

0.711

**

244

0.773

**

280

18±

0.675

**

117

0.698

**

139

0.737

**

167

0.760

**

200

** はP=0.01での有意な相関係数を示す

一般的に,足長と成人身長の相関関係は手長と身長のそれよりもより大きな値を示した。成人身長をいくつかの階級に分け,その階級に属する子ども足長の成長を比較した報告2)でも,成人身長が大きな子どもは大きな足長を保って成長することを明らかにしている。ここに至って,私たちは言い伝えの意味がようやく明らかになったように思った。しかし,私たちは成人身長が思春期開始時および思春期中期の身長現量値と高い相関関係を持っている8)ということから,各年齢群での身長の現量値に注目した。

表3.身長現量値を一定にしたときの手長・足長の現量値と成人身長の偏相関

年齢

女子

男子

手長

例数

足長

例数

手長

例数

足長

例数

0.037

48

-0.168

69

0.248

44

0.099

54

0.096

140

-0.037

192

0.180

103

0.007

133

0.053

160

-0.062

213

-0.054

120

0.012

148

0.023

179

0.033

236

0.028

127

0.025

155

10±

0.051

197

0.087

259

-0.110

139

-0.012

167

11±

0.070

215

0.217

*

275

-0.085

148

-0.045

178

12±

0.123

227

0.306

*

280

-0.129

159

0.075

195

13±

0.273

*

239

0.343

*

294

-0.059

170

0.220

*

205

14±

0.287

*

238

0.310

*

284

0.046

168

0.281

*

200

15±

0.114

243

0.157

288

0.047

181

0.214

*

212

16±

0.036

224

0.027

269

-0.025

170

0.055

200

17±

0.023

211

0.078

257

0.006

170

0.013

198

18±

-0.172

115

-0.081

135

0.088

131

0.103

157

* はP=0.05での有意な相関係数を示す

 もし手長,足長が身長現量値と相関を持つならば,これらと成人身長の高い相関は見かけのものであることになる。これを確かめるために身長の現量値の影響を一定にしたときの手長,足長と成人身長の関係を偏相関で分析した(表3)。偏相関係数は単相関では高かった関係を一気に修正してしまった。女子では11〜14歳,男子では13〜15歳の足長と成人身長の間には有意な弱い偏相関係数をみたが,それ以外の年齢では偏相関が無かった。このことは,「足が大きな子どもは大きな大人になる」という言い伝えが,見かけの手の大きさと成人身長の関係に言及していることを示している。Liuら2)の研究もこの点には論及してない。よって,私たちは,思春期前で大きな手足を持つ子どもは大きな身長であることを見逃していたことによってこのような言い伝えが流布したもの,と考えるにいたった。本報告では,私たちは四肢末端部の大きさと全体の大きさの成長・成熟の相互関係に本質的な新知見をみつけることはできなかった。

文献

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(第9回Auxology(成長学)研究会,1998.11)