成長用語集

(c)Copyright 1996
河内まき子(工技院)
高井省三(筑波大)


アドレナーキ,あどれなーき,adrenarche
副腎皮質が副腎性アンドロゲン(デヒドロエピアンドロステロン,アンドロステンジオン)を分泌し始めること。これらのホルモンには弱い男性化作用があり,陰毛発生や体の成長を促進させる。普通の子どもでは6〜8歳にみることができる。小児期成長スパートの項も見よ。
アロメトリー,あろめとりー,allometry
サイズの増大に伴うプロポーションの変化を解析する方法。X,Y2つの形質,例えば座高と下肢長,のプロポーションが成長につれてどのように変化するかの見方を相対成長を表わすという。Y/Xを時間についてプロットしたグラフも相対成長ということができる。Huxley (1932),Teissier (1960)はこの相対成長をアロメトリーという別の切り口でみせた。成長は本質的に自己増殖である,すなわち指数関数で表すことができる,という前提から出発すると,成長しつつある2変量の間にln Y = α ln X + ln b,という一次式が成り立つ。このときのαはX,Yの比成長速度あるいは比成長率の比([1/Y・dY/dt]/[1/X・dX/dt])を表す。したがってXとYの成長テンポが等しいときはα=1となりX,Yが成長してサイズが大きくなっても両者のプロポーションは変わらない。この関係を等成長という。アロメトリー式は時間の項を含まないことが特徴である。アロメトリーが全成長期間を通し1本の直線では表せないことがある。交差する複数の直線で現せるとき,その交点を変調点という。この点の前後ではプロポーションの変化の方向が変わる。ヒトでの変調点は思春期に相当して現れる。成長系ではないアロメトリーを相対変異という。たとえば,同一種の成体の体長と体重の間にα=3の関係が成り立つかというような次元解析的なアロメトリーを種内相対変異という。一つの系統進化の中のメンバー間でのアロメトリーを進化アロメトリー,いくつかの種の成体の間でのアロメトリーを種間アロメトリーという。Jolicoeur (1963)は2変量のアロメトリーを多変量に拡張した。−−>相対成長相対変異等成長比成長速度比成長率
アンドロジニイ・スコア,androgyny score
男子では相対的に肩幅が広く,女子では相対的に腰幅が広いことを利用して,体形の男らしさ,女らしさを表す指標。身体計測値に基づいて男女を判別しようとする,判別関数の得点として計算される(Tanner, 1951)。アンドロジニイ・スコア1=3×肩峰幅−腸骨稜幅(判別値=82)。体形の男らしさが強いほど得点が高い。日本人では7×肩峰幅−腸骨稜幅(判別値=227)という式が得られている。この得点は,成長に伴い高くなり,12歳で性差が現れる(木村,1979)。
アントロポメータ,anthropometer
計測点の床面からの高さを測るための計測器。4本に分割できる全長約2 mの管状の物差し(本尺),この全長に沿って自由に動くT字型の鞘(スライダ),スライダに差し込んで使う物差し(横規)から成る。本尺を床面に垂直に立て,スライダを上下させて横規の先端を計測点に当てて計測する。身長計と呼ぶこともあるが,この呼び方はスタジオメータとの混乱をまねく。−−>身長計
一般型,いっぱんがた,general type of growth
−−>Scammonの成長パターン
インスリン様成長因子,いんすりんようせいちょういんし,insulin-like growth factor
インスリン様成長因子(IGF)とは血中濃度が成長ホルモン(GH)依存性で,かつインシュリン様作用を示す成長因子の総称。ソマトメジンはこれに等しい。GHの成長促進作用の少なくとも一部はインスリン様成長因子によって仲介されるものと考えられている。IGFは軟骨・骨組織のコラーゲン合成,RNA・DNA合成,蛋白質合成;脂肪細胞に対しグルコース酸化,グルコースの脂質への取り込み;筋組織に対し蛋白質合成;その他の細胞(線維芽細胞)のDNA合成などに関与する。IGFは少なくとも肝臓が産生する。IGFの分泌は身長最大成長速度年齢と一致してあるいはその直後に最高となる。その分泌パタンは,GHのような脈動的な,日内変動を示さない。−−>ソマトメジン
SES,えすいーえす,socioeconomic status
成長に影響をおよぼす環境要因の一つ。SESの具体的指標には家族の収入,父親の職業,両親の学歴,家族数,兄弟(姉妹)数などをあてる。社会経済的に上のクラスの家庭の子どもはより良い成長を示す。1960年代の英国では父親の職業・兄弟姉妹の数と7歳児の身長は,両極端のカテゴリー(ホワイトカラー・一人っ子 vs. ブルーカラー・4人兄弟姉妹)では5cm以上の差があった。日本でも1960年代の仙台で同様に生活水準が高い家庭の児童は高身長であることが報告されている。成長の国内地域差を県民力水準(朝日新聞社統計),国際比較を国民総生産を指標として見ることもできる。1973年からの10年間の14歳男児の身長の伸び率と県民力の伸び率の間にはr=0.78と高い相関があった。SESと似たような成長要因として都市化がある。都会の子どもの身長は農村の子どもより大きいとう報告が,西欧,東欧諸国でいまだにある。−−>社会経済的要因
<追いつき成長,おいつきせいちょう,catch-up growth
−−>キャッチアップ現象
<横断的研究,おうだんてきけんきゅう,cross-sectional growth study
成長を研究するためのデータのとり方のひとつで,異なる年齢の多数の被験者につき,短期間にデータをとる。暦年齢を基準に集計を行い,各年齢における値は多数の被験者の平均値となるため,成長のテンポの個人差を無視することになる。また,異なる年齢群に属する被験者は生年が異なる。このため,成長速度に関する正確な情報が得られない,成長による増加と時代変化による増加を区別することができない,という短所が生じる。一方,全成長期間について大量のデータを短期間に集めることができ,成長の全体的傾向を知ることができるという長所がある。
カウプ示数,かうぷしすう,Kaup's index
−−>ボディマスインデックス
滑動計,かつどうけい,sliding caliper
20 cm以下の二点間距離,あるいは最大径を測るためのノギスのような計測器。
加齢,かれい,aging
受精卵から成体を経て死に至るまでの,生物個体の形と機能にみられる量的および質的な時間的変化の過程と機構を加齢とよぶ。これは,受精から死に至るまでの変化を一続きのものとみなす考え方であるが,受精から成人になるまでの変化を成長・発育とよぶ。加齢としては成人になって以後の退行的変化,すなわち老化だけを指すことが多い。老化では,成長に比べて変化が徐々におこり,器官による老化の進み具合いもまちまちで,個体差も大きい。
桿状計(管状計),かんじょうけい,large sliding caliper (anthropometer)
二点間距離,あるいは二点間の投影長を測るための大型のノギスのような計測器。アントロポメータ本尺の上部2本には上端から目盛りがうってあり,上端部とスライダとに横規を差し込んだものを桿状計と呼ぶ。
関数当てはめ,かんすうあてはめ,curve fitting of growth curve
−−>成長曲線
キャッチアップ現象,きゃっちあっぷげんしょう,catch-up growth
発生しつつある系はその道筋に固執するような傾向を持っている。異常温度のような外的環境にせよ,あるいは異常な遺伝子の存在といったような内的環境にせよ,なんらかの影響によって発生系をその道筋からそらすことは非常に困難である。たとえば発生途上の系の一部を切除して強制的に異常を起こそうとしても,その系は依然として予定されていた道筋のうえに自らを戻し正常な成体として仕上げようとする傾向がある。これが発生のキャナリゼーション(運河化)である。ヒトの生後の成長にもこのような現象を観察できる。急激な栄養不良や重病による成長遅滞は,十分な栄養供給の再開や病気からの回復によって促進されやがては成長遅滞がなかったと仮定した成長パターンにもどる。これが成長のキャッチアップ現象である。出生体重は生後2,3日のあいだに150 gほどの生理的減少を示すが,その後1週間ほどで元の出生体重に復帰する。これもキャッチアップ現象の一つである。キャッチアップ現象は正常な幼児の成長にもある。出生時に小さかった子どものその後の成長はより大きいという傾向がある。ところが出生時の大きかった子どものその後の成長は小さくなる傾向がある。とくに中位の大きさの両親から生まれた大きな子どもにこの傾向が強い。このような成長の沈み込み現象がキャッチダウン現象である。この現象は13〜14カ月にわたる。−−>追いつき成長キャッチダウン現象キャナリゼーション
キャッチダウン現象,きゃっちだうんげんしょう,catch-down growth
−−>キャッチアップ現象
キャナリゼーション,きゃなりぜーしょん,canalization
−−>キャッチアップ現象

頬骨弓幅,きょうこつきゅうふく,bizygomatic breadth
左右の頬骨弓外側面間の最大幅。いわゆる顔の幅に相当する。左右の計測点は同じ前頭面内にある。触角計の先端を左右の頬骨弓にあて,前後に動かしながら最大幅をみつける。このようにしてみつけた計測点を頬骨弓点(ジギオン)と呼ぶ。
胸矢状径,きょうしじょうけい,median chest depth
正中矢状面内で測った胸骨中点(メソステルナーレ)の高さにおける胸郭の前後径。胸骨中点とは左右の第4胸肋関節を結ぶ直線と正中矢状面の交点。自然の呼吸で息を吐いた時点で測る。
胸示数,きょうしすう,thoracal index
胸骨中点(メソステルナーレ)の高さにおける,胸郭の水平断面形状の偏平度を表す示数。胸矢状径÷胸幅×100で計算される。胸骨中点とは左右の第4胸肋関節を結ぶ直線と正中矢状面の交点。ヒトと類人猿ではサルに比べて胸示数が小さい。また,成長するにつれて胸示数は小さく,つまり胸部断面の形状はより偏平になってゆく。
胸幅,きょうふく,chest breadth
胸骨中点(メソステルナーレ)の高さにおける胸郭の最大幅。胸骨中点とは左右の第4胸肋関節を結ぶ直線と正中矢状面の交点。自然の呼吸で息を吐いた時点で測る。人間工学の分野では,胸骨中点ではなく乳頭の高さで測ることが多い。
胸部厚径,きょうぶこうけい,chest depth
乳頭の高さにおける胸部の最大前後径。筋や乳房など軟部組織も含まれるため,胸郭自体のの大きさを表すわけではない。胸幅,胸矢状径とは計測する高さが異なる。自然の呼吸で息を吐いた時点で測る。
巨人症,きょじんしょう,gigantism
平均よりも2標準偏差を越えているか,97パーセンタイル値を越えるような高身長を示す児童の状態をいう。原因は,1)原発性(体質性),2)内分泌性,3)染色体性がある。高身長の小児の大部分は1)が原因である。内分泌性のものには成長ホルモン放出因子の分泌過剰(視床下部性巨人症),成長ホルモンの分泌過剰(下垂体性巨人症)を原因とするものがある。染色体異常が原因となるものには,骨格異常,水晶体亜脱臼,心血管系異常を3大主徴とするMarfan症候群(常染色体優生遺伝);Klinefelter症候群(基本型は47+XXY),XYY症候群がよく知られている。
形態学顔高,けいたいがくがんこう,morphologic face height
鼻根点(ナジオン)からオトガイ点(グナチオン)までの直線距離で,顔面頭蓋の高さを表す。鼻根点とは額と鼻の境界,すなわち前頭鼻骨縫合と正中線の交点。オトガイ点とは頭部を耳眼面が水平になるよう保持した状態における下顎の正中面内における最下点。
形態学顔示数,けいたいがくがんしすう,morphologic facial index
正面から見た顔面頭蓋のプロポーションを表す示数で,形態学顔高÷頬弓幅×100で計算される。この値によって,過広顔型,広顔型,中顔型,狭顔型,過狭顔型に分類する。各型の境界値は生体と頭骨とで異なる。
形態学的年齢,けいたいがくてきねんれい,morphological age
身長や体重のような生体計測項目の成長パターンのある特徴的な時点を元にして刻む生物学的年齢のひとつ。成人身長の90%値,身長の最大増加,下肢長と座高のプロポーションの変位を示す時期を起点に暦年齢を刻んでいくことができる。身長や体重の標準成長曲線の上で,ある値に対する暦年齢も形態学的年齢といえる。
肩峰腸稜示数,けんぽうちょうりょうしすう,acromio-cristal index
体幹部のプロポーションを表す示数で,腸骨稜幅÷肩峰幅×100で計算される。胴幅示数と呼ぶこともある。この示数には10歳くらいから性差が現れる。成人では男の方が値が小さい。アンドロジニイ・スコアも見よ。
肩峰幅,けんぽうふく,biacromial breadth
せすじを自然にのばして直立し,肩の力をぬいて上肢を自然に下垂した状態での,左右の肩峰点(アクロミアーレ)間の距離。肩峰点とは肩甲骨の肩峰の最も外側に突出した点。
現量値曲線,げんりょうちきょくせん,distance curve of growth
−−>成長曲線
高身長化,こうしんちょうか,secular increase in height
−−>時代変化
口裂幅,こうれつふく,mouth breadth
左右の口角点(ケイリオン)間の距離で,いわゆる口の幅。口角点とは,口角部で上下の赤唇部が移行する点。
声変わり,こえがわり,voice change
男子でとくに目立つ思春期の兆候のひとつ。それまでの高い周波数の声が徐々に低い周波数の声に変わっていく。この出来事は徐々に起こるので評価がむずかしい。スイス児童では身長の最大増加の時期(13.9歳)に声変わりが始まり,完全に声が変わるのはその1年後である。声変わりは男性ホルモンが喉頭軟骨(のどぼとけ)の増大と,声帯筋に働きかけた結果である。
個人追跡法,こじんついせきほう,following-up study
−−>縦断的研究
骨化,こつか,ossification
骨組織ができ上がる(発生,成長)過程をいう。2種類の様式−膜性骨化,軟骨性骨化−がある。膜性骨化は結合組織性骨化ともいい,結合組織の中に直接に骨芽細胞によって骨組織ができてくる。頭蓋冠の骨,鎖骨の一部,下顎骨の一部がこの骨化様式をとる。軟骨性骨化はいったん硝子軟骨組織によるモデルができ,やがて骨組織で置き換わる様式である。頭蓋底,体幹,四肢など全身のほとんどの骨はこの骨化様式をとる。骨化の始まりの点を骨化中心(骨核,骨化点)といい,はじめてX線による骨の観察が可能となる。骨化中心は上腕骨,大腿骨のような四肢の長管状骨の軟骨モデルでは両端と中央部に3個出現する。手足の指の短い管状骨の軟骨モデルの場合,骨化中心は片端と中央部の2ヵ所に出現するのが普通である。両端または片端の骨化点が成長した部分を骨端といい,中央部分の骨化中心が成長した部分を骨幹という。将来骨端と骨幹になる骨化中心が成長していくと両者の間に軟骨モデルが軟骨の円板として取り残される。これが骨端軟骨である。骨端軟骨が分裂増殖している間は長管状骨の長さの成長が続く。やがて,骨端軟骨が成長をやめ骨組織に置き換ってしまうと骨の長育は止まる。−−>骨化中心骨幹骨端
骨化中心,こつかちゅうしん,ossification center
−−>骨化
骨幹,こつかん,diaphysis
−−>骨化
骨端,こつたん,epiphysis
−−>骨化
骨年齢,こつねんれい,bone age
死体あるいは生体で骨化の過程(とくに成長期での骨化を骨成熟という)を直接あるいはX線で観察し,ある基準に照らし合わせて生理学的年齢を求める方法をいう。骨化時計ではかった時間のこと。対象となる骨は頭蓋冠(の縫合),恥骨結合面,手と手首の骨,膝の骨などである。死体の骨での観察で,主として成人以後の骨年齢判定には前二者を利用する。生体でのX線像をつかって成長期の児童の骨年齢を判定するには後二者を使う。膝の骨による骨年齢評価法にはRWT法(Roche-Wainer-Thissen法,1975)があるが,最近ではX線撮影の容易さ,情報量の多さ,X線被曝量の軽減,低コストなどの点から手と手首の骨が骨年齢判定の対象となっている。手骨での骨年齢評価法には2つの方式−図譜法,スコア法−がある。図譜法は適当な暦年齢ごとに標準的な骨成熟を示すX線像が用意されており,この標準と比較して一番マッチしている年齢を探す方法である。この方法はTodd(1937)が始め,Greulich-Pyle(1959)が引き継いだ。スコア法はAcheson(1954)がOxford法として始めた方法で,Greulich-Pyleの手骨の成熟指標に点数(実は骨成熟の順位数)をふりこれを合計したスコアで骨成熟の段階を表わすものである。この方法を日本人向けに改訂したものが,杉浦−中沢法(1968,1985)である。Tannerらは,順位数は可算できないというOxford法がもつ矛盾を解消した,TW1法(1962)を発展させた。現在ではTW2法(1975,1983)として広く流布している。TW2法ではいくつかの手骨の成熟指標に相当する成熟段階をX線フィルムから読み取り,8ないし9の成熟段階に対応する重み付きスコアを合計し,さらに標準骨成熟曲線に対応する暦年齢を読み取り骨年齢を決定する。TW2法はイギリス児童を対象にしているので,骨年齢はイギリス児童相当のものである。そこで,村田ら(1993)は日本児童を対象としたTW2骨年齢を発表した。Rocheら(1988)のFELS法はアメリカ児童を対象とした新たなスコア方式の骨年齢評価方法である。スコア方式はやや繁雑な評価法である。最近では評価者が読影した骨成熟の段階からパーソナルコンピュータで合計スコア,さらには骨年齢に変換することが可能になっている。
ゴナダーキ,ごなだーき,gonadarche
性腺(精巣,卵巣)が成熟し,その結果,性腺ホルモン(アンドロジェン,エストロジェン)が分泌し始めること。ゴナダーキのメカニズムは視床下部−下垂体−性腺系のフィードバック・コントロール機序にある。視床下部に,サーモスタット(温度感知器)に相当する,ゴナドスタット(性ホルモン感知器)を想定する説は次のようである。ゴナドスタットは胎生期に働き始め,設定値は思春期前にむかい次第に低くなっていく(感受性が高くなる)。この時期は視床下部−下垂体−性腺系のネガティブ・フィードバック・コントロール機序が働き,わずかな性ホルモンを感知して性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌を(したがって性ホルモンの分泌も)抑えてしまう。設定値はやがて思春期にむけてゆっくりと上昇し始め,思春期に入り急激に高まる。設定値が上昇し始める(感受性が低下していく)ころネガティブからポジティブ・フィードバック・コントロール機序に切り替わる。視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌が活発になりその結果下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌が高まる。ついで下垂体の性腺刺激ホルモン放出ホルモンに対する感受性,そして性腺の性腺刺激ホルモンに対する感受性も高くなる。こうして性ホルモンの分泌が盛んになり,二次性徴の発現開始,身長・体重の思春期スパートの開始,骨成熟の完了などが起こる。しかし,ゴナダーキの詳細なメカニズムはなお不明な点が多い。視床下部−下垂体−性腺系の項も見よ。
小人症,こびとしょう,dwarfism
平均よりもマイナス2標準偏差を下まわっているか,3パーセンタイル値に達しないような低身長を示す児童の状態をいう。下垂体性小人症,甲状腺機能低下症(クレチン症)などの内分泌性疾患のほかに,原発性(体質性)のもの,愛情遮断性小人症(情緒障害による)がある。
混合縦断的研究,こんごうじゅうだんてきけんきゅう,mixed longitudinal growth study
成長を研究するための,データのとり方の方法の一つで,横断的方法,縦断的方法それぞれの短所をとり除くよう計画されている。被験者は一定の期間(たとえば6カ月)の間に生まれた個体から構成される複数のグループから成る。このようなグループをコホートと呼ぶ。各被験者は一定の間隔(たとえば1年)で繰り返し計測される。コホートの数とコホート間の年齢差を適切に決めることによって,縦断的研究より短期間に,到達値および成長速度に関する情報を集めることができる。たとえば,コホート数を4,コホートの生年を5年おきとすると,0歳から20歳までのデータを5年間で集めることができる。このような一般的な計画からみると,縦断的研究はコホートが1つの特殊例,横断的研究は計測時点が1回の特殊例とみなすことができる。2回以上計測された不完全な個人追跡データをふくむ個人追跡データを,混合縦断的データと呼ぶこともある。
最大増加量,さいだいぞうかりょう,maximum increment of growth
−−>成長速度曲線
最大速度,さいだいそくど,peak velocity of growth
−−>成長速度曲線
座高,ざこう,sitting height
耳眼面を水平にし,せすじを伸ばして膝の後ろが座面の前縁に当たるように深く座った姿勢での,座面から頭頂点(ベルテックス)までの高さ。頭頂点とは耳眼面を水平にしたとき正中矢状面内における頭部の最高点。
思春期,ししゅんき,adolescent period
−−>成長期
思春期スパート,ししゅんきすぱーと,adolescent growth spurt
性成熟と同じころに起こるからだの成長の劇的な増加のこと。ヒトを含めた霊長類に出現する。S状曲線を描くScammonの一般型の成長パターンを示す測度,器官は多かれ少なかれ思春期スパートを見せる。小児期スパートと思春期スパートに相互関係はない。身長の思春期スパートの大きさ,期間,タイミングなどのパラメータと成人身長との間にも関係はない。思春期の性ホルモンの分泌の増加は,はじめ成長率を増加させる。やがて長管状骨の骨端軟骨の閉鎖をもたらして身長の成長を止める。すなわち思春期スパートは成長の停止をもたらすように働く(Gasserら,1985)。
視床下部−下垂体−性腺系,ししょうかぶかすいたいせいせんけい,hypothalamic-pituitary-gonadal axis
思春期のからだの成長のスパートや二次性徴の発現は性腺からの性ホルモンの働きによるところが大きい。下垂体前葉からの性腺刺激ホルモン(卵胞成熟ホルモン,黄体化ホルモン)は性ホルモンの分泌をコントロールする。さらに性腺刺激ホルモンの分泌は間脳の視床下部からの視床下部ホルモン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が支配している。この視床下部ホルモン自身も性ホルモンによってコントロールされる。このようなフィードバック・コントロールシステムが視床下部−下垂体−性腺系である。ゴナダーキの項も見よ。
時代変化,じだいへんか,secular change
長期間にわたってある集団の特徴が変化する現象。変化の方向は必ずしも一定ではなく,場合によっては逆転することもある。成長に関する時代変化では出生時から成人までの各年齢において身長が高くなる高身長化現象や,初潮の早発化や骨成熟の進行が早まるという発育加速現象(成長加速現象)が世界各地で報告されている。成人の平均身長の増加は,北西ヨーロッパ系の集団では過去100年の間,10年に約1 cmの速度で進行した。日本では第二次大戦後30年間の高身長化の速度は,これよりもはるかに高い。初潮の早発化は北西ヨーロッパ系集団では,過去100年の間,10年に3〜4カ月の速度で進んできた。成長に関する時代変化の原因としては生活条件全体の向上など環境要因の効果が大きいと考えられている。  日本ではこの他に,頭示数が大きくなり,頭部上面観形状がまるくなる短頭化現象,鼻根部の立体形状がのっぺりした状態から立体的な状態へと変わる現象,歯槽性突額(いわゆる出っ歯)が弱くなるなど,顔つきに関する特徴の時代変化が,過去100年間に進行してきた。これらの時代変化の原因は,はっきりしていない。−−>高身長化成長加速現象発育加速現象
社会経済的要因,しゃかいけいざいてきよういん,socioeconomic status
−−>SES。
集団追跡法,しゅうだんついせきほう,population follow-up study
たとえば文部省の学校保健統計調査のような,毎年行われる全国的な体格調査の報告資料を成長の研究に利用するときの,データの取り扱い方のひとつ。被験者集団の出生年度を基準として,同じ年度生まれの集団の異なる年齢時のデータを,複数の年度における調査報告にまたがってひろいだしてゆく。たとえば,1970年生まれの集団の6歳時のデータは1976年度の報告から,7歳時のデータは1977年度の報告からとる。この方法によれば,どの年齢のデータも,被験者自体は異なってはいるものの,同じ年度に生まれた者からとることになるため,横断的方法に比べて時代変化の影響が少ないデータを得ることができる。
縦断的研究,じゅうだんてきけんきゅう,longitudinal growth study
成長を研究するためのデータを得る方法の一つで,同一個人につき,一定間隔で繰り返しデータをとり続ける方法。個人追跡法とも呼ぶ。ある時点における状態だけでなく,成長速度に関する情報,PHV年齢のような成長曲線の特徴に関する情報をも手にいれることができる。しかし,多数の被験者につき全成長期間にわたるデータを得ようとすると,時間がかかり効率が悪いという欠点がある。−−>個人追跡法。
出生体重,しゅっせいたいじゅう,birth weight
出生時の体重。ただし,母体から娩出された場合で,生きている証拠が認められる場合を出生とする。出生体重は胎児期における成長が順調であったかどうかを反映するが,生まれた子供自体の遺伝的素因よりも,母親の遺伝的素因や,母親の喫煙,母親の栄養状態のような環境要因の影響が大きい。
上肢長,じょうしちょう,upper limb length
上肢を下垂して肘と手指を伸ばした状態での,肩峰点(アクロミアーレ)から指先点(ダクティリオン)までの直線距離。肩峰点は肩甲骨の肩峰の最も外側に突出した点。指先点とは中指の先端のこと。肩峰高と中指端高を測り,両者の差として計算することもある。
上前腸骨棘高,じょうぜんちょうこつきょくこう,iliospinal height
床面から上前腸骨棘点(イリオスピナーレ・アンテリウス)までの高さ。上前腸骨棘点とは腸骨の上前腸骨棘が最も下方に突出した点。下肢の長さの代表値として使われることが多い。
小児期成長スパート,しょうにきせいちょうすぱーと,mid-growth spurt
6.5〜8.5歳の年齢に現われる成長速度の増大現象。この時期はシュトラッツ(1903)の第1伸長期にあたる。男女児の身長をはじめ上肢長,下肢長,胸囲,腰幅,体重,皮脂厚などに出現する。しかし座高には出現しない。長径項目での大きさは0.3〜0.7cm/年位である。このスパートは副腎性アンドロゲン分泌が増加するアドレナーキの時期に相当する。いっぽう,このスパートの出現時期や大きさに性差はないことから,アドレナーキが小児期スパートの原因であることはなさそうである。
初経,しょけい,menarche
−−>初潮
初潮,しょちょう,menarche
子宮内膜の脱落による初めての出血が初潮である。初潮後しばらくは,月経はあっても排卵はおこらないので,必ずしも初潮は性的成熟を意味するわけではない。初潮は,思春期におこるホルモン分泌の結果生じる,さまざまな身体的,生理的変化のなかの一つである。しかし,他の徐々におこる変化に比べて点として認識することができる。そのうえ,本人にとっても劇的な現象なので記憶にも残りやすい。このため,性的成熟開始,あるいは思春期のめやすとしてしばしば使われる。このような生理的年齢のめやすとしては,女児にしか使うことができないという短所がある。初潮の発来と形態的特徴との関連については,PHV年齢の1年ほど後に初潮がおこることが知られている。また,集団の平均値としては,暦年齢にかかわらず,身長が一定の値に達したら初潮がおこるという説,体重が一定の値に達したら初潮がおこるという説(臨界体重説),皮下脂肪量が一定の量に達したら初潮がおこるという説などがある。これらの説は,各個人には当てはまらない。−−>初経
初潮年齢,しょちょうねんれい,menarchial age
初潮がおこったときの年齢。女児が早熟か晩熟かを表すめやすとなる。初潮年齢はSESにより異なり,SESが高い集団の方が,初潮年齢が若い傾向がある。また,SESに差がないならば,北西ヨーロッパ系の集団よりも東アジア系の集団の方が,初潮年齢が若い。ある集団の平均初潮年齢の調査方法には2とおりある。成人集団に対してアンケート調査を行い,記憶にたよって記入してもらう方法では,実際よりも初潮年齢が低くなる傾向がある。ある女児集団全員に対して,ほぼ全員で初潮が始まっていない時期からほぼ全員が始まった時期まで定期的に,初潮があったか否かだけを調査して,プロビット法で平均年齢を推定する方法では,より正確な平均初潮年齢が得られる。
初潮年齢尺度,しょちょうねんれいしゃくど,menarchial age scale
−−>生理学的年齢
触角計,しょっかくけい,spreading caliper
ふたつの計測点間の距離を測るための計測器。身体の他の部分がじゃまになるため,滑動計では計測できない場合に使う。
神経型,しんけいがた,neural type
−−>Scammonの成長パターン
人体測定,じんたいそくてい,anthropometry
人体の形態的変異を調べる目的で人体各部の寸法を測定するとき,誰が測っても,また何回繰り返して測っても,得られた値が比較可能であるように統一された測定法を,人体測定法という。このような統一された方法にしたがって行う人体各部の寸法測定が,人体測定である。人骨ではなく,生体が測定の対象である場合を,とくに生体計測あるいは生体測定という。計測法統一の内容は,測定を行う際の被験者の姿勢,計測器を当てる位置である計測点の定義,計測項目の定義,使用する計測器の種類,計測項目の測り方などである。計測点は,皮膚の上から触れることができる骨格上の特徴点である場合が多い。計測器はアントロポメータ,滑動計,触角計,桿状計など,人体測定独自の器具を使う。計測法の基準としては,R.マルチンの教科書(1988),IBP(International Biological Programme)における定義(1969)などがある。また,被服学,人間工学などの分野では,独自の計測項目が多数定義されている。−−>生体計測
身長,しんちょう,height
耳眼面を水平にし,せすじを自然に伸ばして,左右の腕を自然に下垂して直立した姿勢での,床面から頭頂点(ベルテックス)までの高さ。頭頂点とは耳眼面を水平にしたとき正中矢状面内における頭部の最高点。ひとりで立つことができない乳幼児では,臥位で計測する。これを臥位身長とよぶ。臥位身長の方が立位で測る身長よりも大きくなる。身長には日内変動があり,成人では変動幅が最大2 cmに達することもある。
身長計,しんちょうけい
−−>スタジオメータアントロポメータ
身長最大成長速度,しんちょうさいだいせいちょうそくど,peak height velocity
−−>PHV
Scammonの成長パターン,すきゃもんのせいちょうぱたーん,Scammon's curves of growth
Scammon(1930)はさまざまな器官の生後の形態学的成長のパターンを調べて4種の類型−一般型,神経型,生殖型,リンパ型−に分けた。彼はパターンを誕生時の値を0とし,成人(20歳)の値を100として表わしている。一般型はS字状の成長曲線を描く。変曲点のタイミングは思春期のはじまりに相当する。一般型の器官は頭部を除く筋骨格系の測度(身長,体重など),生殖系を除く内臓,循環器のサイズがある。神経型は早期に成長が著しい(成長曲線の立ち上がりが早い)。以後はプラトーとなる指数関数的なパターンである。脳とこれを納める頭,眼球のサイズや脊髄の長さがこのパターンを示す。生殖型は神経型とは対称的に早期にはほとんど成長しない。思春期から急激な成長がおこり完成する。生殖器のサイズと二次性徴器官(乳房など)がこのパターーンを示す。リンパ型は思春期前期に成人の値を追い越すほど(190%)急激に成長し,以後は沈滞して成人値に落ち着くパターンである。胸腺,リンパ節,扁桃のサイズがこのパターンを示す。このように器官,部分によって成長が盛んな時期が異なるので,ヒトは相似形で成長するのではなくプロポーションを変化させながら成長する。一般型と神経型の成長パターンの違いは,幼児期の身長に比べて頭でっかち,頭に比べて顎が小さいプロポーションや顔に比べて大きなぱっちりした目のプロポーションを説明する。また,4頭身の新生児から6.5頭身の成人へのプロポーション変化も神経型と一般型のパターンから説明できる。−−>一般型神経型生殖型リンパ型
スタジオメータ,すたじおめーた,stadiometer
身長を測るための計測器。全長約2 mの,目盛りのついた垂直な背板と,これに沿って上下に自由に動く水平な頭板から成る。被験者は背板に背を押し当てて立つため,アントロポメータで計測するよりも身長がやや高く測られる。アントロポメータの横規と異なり,頭板には幅があるため,正中矢状面上には限らず,床面からの頭部の最高点の高さを測ることになる。身長計とも呼ぶが,この呼称はアントロポメータとの混乱をまねく。−−>身長計
成熟,せいじゅく,maturation
まったく未完な組織,器官が完成の状態または個体が成体(成人)に達するテンポあるいは過程をいう。この完成の状態は身長のように170cmという値で表わされるものではなく,100%という概念をもつ。四肢骨の発生(骨成熟)では軟骨モデルが完全に骨組織で置換されると骨成熟が完了したことになる。このように成熟にはすべての正常なヒトに共通の終点がある,しかしすべての子どもの身長の成長の完成(終点)を共通の値で表わすことはできない。成熟の指標はしばしば,離散的,順位的,質的あるいは非可算的なものである。成熟と生理学的年齢は密接な関係を持っている。
生殖型,せいしょくがた,genital type of growth
−−>Scammonの成長パターン
生体計測,せいたいけいそく,somatometry
−−>人体測定
成長,せいちょう,growth
成長という言葉には,大きさの増加と,未分化な状態から特殊化した状態への変化(分化)あるいは身体機能や行動の時間的変化という2つの概念がふくまれる。英語では前者に対してgrowthを,後者に対してdevelopmentという語を使い分けているが,日本語では,成長,発育,発達などの言葉をそれほど厳密に区別せず使うことが多い。ヒトの成長では,思春期のスパートの存在と,体重とのアロメトリーでみると長い成長期間とが特徴であるが,これらは他の霊長類,とくに類人猿にも認められる。成長は内分泌系によって制御されており,成長ホルモン,甲状腺ホルモンなどが適切に分泌されることが正常な成長にとって必要不可欠である。何らかの原因でこれらのホルモンの分泌が異常になると,成長異常をおこし,低身長,知能の遅れなどの障害をもたらす。成長はまた,遺伝と環境の両方の要因によって支配される。思春期前の成長は環境要因に,思春期のスパートは遺伝的要因によって,大きく影響されている。成長を左右する環境要因としては,気候,高度,SES,栄養などがある。雨期,乾期のような条件により季節的に生活条件が大きく変わる場合は,それに応じて成長速度が変化する。また,このように劇的な季節的変化がない場合も,身長は冬期よりも夏期に,体重は夏期よりも冬期に多く伸びるという傾向がある。−−>発育
成長加速現象,せいちょうかそくげんしょう,growth accerelation
−−>時代変化
成長期,せいちょうき,growth period
出生から成人までの期間を成長期(発育期)とよぶ。成長期の区分は,身体的発達に関しては,形態的,生理的に比較的に明瞭に分かれる 新生児期(生後7日まで),乳児期(生後1年まで),幼児期(生後1年から6年まで),少年期(生後6年から10〜12年まで),思春期(20年まで)。ただし,各時期の境界になる年齢には個人差が大きく,ここにあげる数字は便宜的なものである。新生児期は出生という生活環境の激変に順応する時期で,最も死亡率の高い時期である。乳児期の終わりには離乳が終わり,歩行もこのころには始まる。幼児期には乳歯が生えそろい,6歳頃になると最初の永久歯が生える。少年期には乳歯が脱落し,永久歯が生えそろう。思春期は,性的成熟が開始し,完了する時期である。思春期には急激な成長のスパート(思春期のスパート),男子の声変わりや女子の乳房の発達のような二次性徴の発達がおこり,女子では初潮が発来する。思春期の開始と成長の停止は,どちらも女子の方が男子よりも2年ほど早くおこる。青年期の年齢区分はあいまいで,思春期後半(17,8歳)から25,6歳をさすこともあれば,中学生から20歳代の終わりまでをさすこともある。成人に達して以後の加齢変化には,成長の場合よりも更に個人差が大きいため,暦年齢による区分は実態とは合いにくい。また,区分となるような顕著な身体的生理的な変化が,女子の閉経を除くとほとんどない。WHOでは成人以後を以下のような年齢区分に分けている。壮年期(20〜59歳),実年期(60〜74歳),老年期(75〜89年),卒年期(90歳以上)。  老化現象の進行速度は遅く個人差が大きいため,発掘人骨の年齢推定の精度は,成人以後は成長期に比べるとかなり落ちる。このため,何歳とは判定せず,少年(7〜15歳),若年(16〜19歳),壮年(20〜40歳),熟年(41歳〜60歳),老年(61歳以上)に大別することが多い。成長と同様,老化の進行も時代変化の影響を受けているので,これらの年齢区分が暦年齢の何歳くらいに相当するかは,必ずしも現在の高齢者の年齢区分と一致しない。−−>思春期発育期
成長曲線,せいちょうきょくせん,growth curve
個体,部分,器官などのサイズの成長または個体数,細胞数などの増加の様子をグラフに曲線で表わしたもの。普通は横軸に暦年齢,縦軸に計測値をとる。曲線上の点は,自動車の距離メータの値のように,一定時間に到達した値(現量値)を表わす。ふつう成長曲線といえばこの現量値曲線のことである。ヒトの成長では計測間隔をあまり狭くすることは難しい。実際に得られるのは折線グラフである。成長曲線,とくに身長成長曲線,を数学的に取り扱おうとするいくつかの試みがある。一つは純粋な数学的モデルを当てはめて成長曲線を記述および説明しようとするもので,ロジスティック曲線,ゴンペルツ曲線などが古くから使われている。最近ではPreece-Bains曲線(1978),Jolicoeur-Pontier-Abidi曲線(1992),Kanefuji-Shohoji曲線(1990),あるいはBock-du Toir-Thissen(1994)のトリプルロジスティック曲線などが使われている。これらの成長曲線をつかって,例えば成人身長の予測などが可能である。もう一つはパラメーターに依存しない自由な曲線を当てはめて成長折線グラフを平滑化し記述しようとするもので,スプライン曲線(Largoら,1978)やカーネル曲線(Gasserら,1984)などがある。これらの曲線は生物学的モデルを仮定しないので現実のデータをよりよく反映する。−−>関数当てはめ現量値曲線平滑化
成長勾配,せいちょうこうばい,growth gradient
からだの各部はそれぞれ異なったテンポで成長する。すでにAristotelesは脊椎動物の発生では頭部の発生分化が早く,下肢が遅いということを記載している。1920年代になってこのような尾部から頭部に向かう部分の相対サイズが段階的に大きくなる現象を頭尾成長勾配と呼ぶようになった。Huxley(1932)とTeissier (1960) はアロメトリーを使って,カニの脚の各部が胴体に近い節から端の節に向かって成長テンポが早くなる成長勾配や後方の肢から前方の肢に向かい成長テンポが早くなる成長勾配を明らかにした。ヒトでも頭方から尾方へ向かいのアロメトリー係数が大きくなる(成長テンポが早くなる)成長勾配,四肢の各節の成人値に対する相対長が近位から遠位に向かい大きくなる成長勾配がある。
成長速度曲線,せいちょうそくどきょくせん,velocity curve of growth
成長曲線(現量値曲線)を時間で微分した曲線のこと。成長率曲線ともいう。自動車のスピードメータが示す値の時間変化のカーブに相当する。普通は横軸に暦年齢,縦軸に一年当りの増加量(年間増加量)を目盛って折線グラフを描く。年間増加量は同一個人の成長記録,すなわち縦断的資料,からしか求めることができない。S字状の現量値曲線では変曲点,すなわちスピードの変わる時点,が分かりにくい。しかし成長速度曲線では変曲点はピークとして現われる。大部分の子どもの身長の成長速度曲線には小児期と思春期に大小のピークが出現する。これが小児期スパートと思春期スパートである。ある集団の標準成長速度曲線を求めようとするとき,年齢ごとに成長速度の平均をとっていくと最大増加(ピーク)のタイミングが異なるために最大増加の平均は鈍くなってしまう。そこで,ピークのタイミングをあわせて(PHV年齢尺度)から最大増加の平均を求める。このようにしてもとめた成長速度曲線がテンポ調整済み成長速度曲線である。−−>最大増加量,最大速度テンポ調整済み成長速度曲線年間増加量曲線
成長ホルモン,せいちょうほるもん,growth hormone
下垂体前葉が分泌するホルモン。作用は二つあり,一つは直接からだの組織に働きかけ,糖の利用を抑制させ,蛋白合成作用を促し貯蔵脂肪を燃焼させる。もう一つはインスリン様成長因子の合成を促し骨の成長を助ける。思春期になると分泌量は増え,身長最大増加時期に最高となる。寝る子は育つの諺のように,成長ホルモンの分泌は深い睡眠が始まるころに分泌量が最高に達するような日内変動パターンを示す。
精通,せいつう,first ejaculation of semen
思春期男子が初めて経験する射精。正確な方法では,尿サンプルを遠心分離して精子を検査する。日本人の例では約13歳で50%ほどの者が精通を経験している。
生物学的年齢,せいぶつがくてきねんれい,biological age
−−>生理学的年齢
生理学的年齢,せいりがくてきねんれい,physiological age
生体の組織がもつ時計によって計る年齢のこと。必ずしも年を単位として表わすわけではない。客観的な外的な暦年齢に対して,組織の成長段階に密接に関連した個体に特有な内的な年齢をいう。たとえば,受精卵が細胞分裂を繰り返しているときの細胞数(細胞時計),心拍数(心臓時計),生えつつある歯の数(歯牙時計),骨化しつつある骨の数(骨化時計)などがある。また成長期に出現する一つの出来事のタイミングを基準時として,その前後に暦年齢を対応させることもある。身長成長での最大増加のタイミングに基づくPHV年齢尺度や初潮のタイミングに基づく初潮年齢尺度がある。−−>初潮年齢尺度生物学的年齢PHV年齢尺度
双生児,そうせいじ,twin
−−>多生児
相対成長,そうたいせいちょう,allometry
−−>アロメトリー
相対変異,そうたいへんい,allomorphosis
−−>アロメトリー
相貌学顔高,そうぼうがくがんこう,physiognomic face height
はえぎわ点(トリキオン)からオトガイ点(グナチオン)までの直線距離。いわゆる顔の長さに相当する。はえぎわ点とは髪の生え際線と正中矢状面の交点。オトガイ点とは,頭部を耳眼面が水平になるよう保持した状態でのる,正中矢状面内における下顎の最下点(グナチオン)。
ソマトタイプ,そまとたいぷ,somatotype
Sheldon(1940)は体格の3つのタイプ(内胚葉型,中胚葉型,外胚葉型)を表わすのに各々の発達程度に応じて1〜7の数字を使った。7-1-1は内胚葉型を,1-7-1は中胚葉型,1-1-7は外胚葉型の極端な例である。これがソマトタイプである。どのタイプにも属さなければソマトタイプを4-4-4と表わす。Sheldonの方法は観察による主観的な分類であるが,Heath & Carter(1967)はこれを発展させて生体計測と算出式を採用した客観的なソマトタイプ分類法を示している。幼児期から思春期を通じて男児は中胚葉型,女児は内胚葉型を示す傾向がある。
ソマトメジン,そまとめじん,somatomedin
−−>インスリン様成長因子
体形,たいけい,body shape
人体各部のプロポーションなどで表される,いわゆるからだつきのこと。比較的下肢が長いとか,頭でっかちであるとか,ねこ背であるとかいった,外見的な身体の形をさし,表現する場合は示数などを使い連続変量で表される。ソマトタイプ体型の項参照。
体型,たいけい,body type
いくつかに分けられた体格の類型。Viola(1935)は体幹と四肢の比例から長肢型,短肢型,標準型を分けた。Kretschmer(1921)の細長型,闘士型,肥満型への分類,Sheldon(1940)の外胚葉型,中胚葉型,内胚葉型への分類がある。いずれも,やせ型,筋肉質型,肥満型を表わしている。ソマトタイプ体形の項参照。
胎生期,たいせいき,prenatal period
受精してから出生までの,母体(子宮)内で成長する時期を胎生期とよぶ。この期間は,最終月経から数える月経齢で約40週である。発生学では受精の時点を基準として受精齢で数える。受精齢と月経齢では受精齢が約2週若い。受精齢で,受精卵が着床するまでを卵割期(受精後7日),これ以後8週末までを胚子期,これ以後を胎児期とよぶ。胚子期の終わりには重要な器官の形成がほぼ終了し,外見的にもヒトの胎児に見えるようになる。胎児期には身体全体が急速に発育し,胚子期に発生した器官が分化する。一方,産婦人科では胎生期を妊娠初期(月経齢15週まで),妊娠中期(月経齢27週まで),妊娠終期(月経齢40週まで)に分ける。妊娠初期は流産をおこしやすい不安定な時期であるが,中期にはいると安定する。終期には,34週以後出生順位による体重の違いが現れ,36週になると皮下脂肪が発達し,体重増加速度は鈍化する。現在の医療技術のもとでは,月経齢22週に達すれば母体外での生存が可能となる。
大泉門,だいせんもん,anterior fontanel
新生児の頭頂部で,まだ骨ができていなくて結合組織の膜が張っている菱形の部分のこと。動脈の拍動が見えたり触れたりできる。通常は生後1.5〜2年で骨ができて閉鎖する。出産時に産道を経過しやすいような,また生後の脳の成長にとって効果的な構造となっている。
多生児,たせいじ,multiplets
2個体以上の個体が同時に妊娠または生まれたときそれらの個体が多胎児または多生児である。2個体の出産が双生児である。双生児には2種類がある。1つの受精卵が卵割の初期に2つに分離して各々独立に発生,成長して生まれた2個体を一卵性双生児という。2個の卵が排卵され各々に別々な精子が受精して発生,成長して生まれた個体が二卵性双生児である。一卵性双生児は同性同士で,遺伝子構成はまったく同一である。二卵性双生児では同性,異性があり遺伝子構成は通常の兄弟姉妹に相当する。このことを利用して成長,変異の遺伝・環境要因を分析することができる。−−>双生児
単生児,たんせいじ,singleton
ヒトを含む霊長類のように1個体が妊娠または生まれたときその個体を単胎児または単生児という。単生児の出生体重は多生児に比べて重く,初期の成長は多生児よりも大きく,早い。
中央年齢法,ちゅうおうねんれいほう,mid-age method
成長データを暦年齢でまとめるときの年齢代表値の記法のひとつ。まとめる年齢区間の中央値で代表させる。1歳刻みでまとめたときのこの記法は10進年齢を四捨五入して整数化したものである。つまり,中央年齢法での6歳は5.50歳から6.49歳の子どもを含む。これを6±歳と表記する。なお,文部省の学校保健統計調査では4月1日現在の10進満年齢を切り捨てて整数化して表わしているので,6歳という代表値は6.00歳から6.99歳の子どもを含む。これを6+歳と表わす。
腸骨稜幅,ちょうこつりょうふく,bicristal breadth
左右の腸骨稜(骨盤の上縁部)外側面間の最大幅。いわゆる腰骨の幅に相当する。腸骨の大きさを測るのが目的であるため,計測器を押し付けて測る。計測点を腸骨稜点(イリオクリスターレ)と呼ぶ。
低出生体重児,ていしゅっせいたいじゅうじ,low birth weight infant
出生体重が2500 g未満の児のこと。低出生体重児でも,体重が在胎週数につりあったものをAFD児(Appropriate For Dates),在胎週数から期待される体重よりも軽いものをSFD児(Small For Dates)と呼ぶ。出生体重が在胎週数につりあっているか否かで,生後の成長のしかたが異なる。1960年までは未熟児という言葉が使われ,身体の発育が未熟なまま出生した乳児で,正常児が生まれたときにもっている諸機能をもつようになるまでのものをさしていたが,出生時の体重は同じでも成長の進み具合いは必ずしも等しくないことがわかり,このような未熟児の概念は使われなくなった。−−>未熟児
デカルト座標変換法,でかるとざひょうへんかんほう,Cartesian transformation
からだの各部分の成長テンポの違いがかたちの変化をもたらす。これを数学的に表わすためにゴム膜にデカルト座標(直交座標)を設定しこの座標系に幼児の顔を描いてみる。X軸に近い領域をマイナスのY方向に引き伸ばしてみると,成人の顔かたちに近づく。このときの座標系の歪みが各部の成長テンポに対応している。D'Arcy Thompson(1942)はこの方法で個体の成長,種間の形態の比較が可能であることを示した。
殿幅,でんふく,hip breadth
左右の足をそろえて直立したときの,殿部あるいは大腿部における最大幅。最も幅が広い部位を測る。計測器は皮膚にさわる程度で,押しつけずに測る。
テンポ調整済み成長速度曲線,てんぽちょうせいずみせいちょうそくどきょくせん,tempo conditional velocity curve of growth
−−>成長速度曲線
頭最大長,とうさいだいちょう,head length
眉間が最も前方に突出している点(眉間点/グラベラーレ)から後頭部までの,頭の最大長。矢状面内で測る。触角計の一方の先端をグラベラーレに固定し,もう一方の先端を後頭部に当てて動かしながら最大値をみつける。このようにしてみつけた後頭部の計測点を,後頭点(オピストクラニオン)と呼ぶ。
頭最大幅,とうさいだいふく,head breadth
頭部の最大幅。触角計を耳の上方に当て,左右の先端が同じ前頭面内にあるよう注意しながら計測器の先端を動かして,最大幅をみつける。このようにしてみつけた計測点を,側頭点(エウリオン)と呼ぶ。
等成長,とうせいちょう,isometry
−−>アロメトリー
胴長,どうちょう,trunk length
胴体の長さを表す寸法で,胸骨上点(スプラステルナーレ)から恥骨結合点(シンフィシオン)までの直線距離。胸骨上点とは胸骨切痕の上縁中央,恥骨結合点とは恥骨結合の上縁の中央。一般には立位で胸骨上縁高と恥骨結合上縁高を測り,差をとる。
頭殿長,とうでんちょう,crown-rump length
胎児の身体寸法のひとつで,座高に相当する。耳眼面が体軸に垂直になるよう頭部を保ち,大腿を体軸に垂直に保った状態で,正中面での頭の最高点から坐骨結節上の殿部の最尾方点までを,体軸に平行に測る。
二次性徴,にじせいちょう,secondary sex character
性の違いによるからだの特徴のうち,遺伝子によるもの(卵巣と精巣)以外のもの。思春期のからだの成熟の性差と関連がある初潮,精通,陰毛の発達,外生殖器の発達,乳房の発達,声変わり,体型(肩幅/腰幅)の特徴,皮下脂肪の発達の特徴などある。
二次性徴年齢,にじせいちょうねんれい,secondary sex character age
二次性徴の成熟段階で表わす生物学的年齢のひとつ。Tanner (1962)による外生殖器の発達段階(男児),乳房の発達段階(女児),陰毛の発達段階(両性)の標準(stage 1〜5)が有名である。日本人児童の陰毛の発現(stage 2)する暦年齢は女児で10〜12歳(佐藤,1937),男児で13〜14歳(加藤ほか,1947)である。
年間増加量曲線,ねんかんぞうかりょうきょくせん,annual increment curve of growth
−−>成長速度曲線
発育,はついく,growth and development
−−>成長
発育加速現象,はついくかそくげんしょう,growth acceleration
−−>時代変化時代変化。
発育期,はついくき,growth period
−−>成長期
PHV,ぴーえいちぶい
身長成長速度曲線での最大増加(ピーク)の大きさのこと。成長速度曲線の当てはめ方によってまちまちな報告であるが,日本男児では11cm/年,日本女児では9cm/年くらいである。−−>身長最大成長速度
PHV年齢,ぴーえいちぶいねんれい,PHV age
身長成長速度曲線での最大増加(ピーク)のタイミングのこと。成長速度曲線の当てはめ方によってまちまちな報告であるが,日本男児では13歳,日本女児では11歳くらいである。
PHV年齢尺度,ぴーえいちぶいねんれいしゃくど,PHV age scale
−−>生理学的年齢
BMI,びーえむあい
−−>ボディマスインデックス
皮脂厚計,ひしこうけい,skinfold caliper
皮下脂肪厚を測るための計測器。実際には,測ろうとする位置のやや上方を手でつまんで皮膚(皮下脂肪をふくむ)のひだをつくり,もう一方の手に持った計測器でこのひだの厚みを測る。計測器の先端には,開き具合いにかかわらずバネで一定の力が加わるようにできているため,ひだを一定の力で押しつぶして,その厚みを測ることになる。
比成長速度,ひせいちょうそくど,specific growth rate
−−>アロメトリー
比成長率,ひせいちょうりつ,specific growth rate
−−>アロメトリー
鼻幅,びふく,nose breadth
左右の鼻翼(こばな)外側面間の最大距離。計測点は鼻翼点(アラーレ)。
肥満,ひまん,obesity
体脂肪量が過剰になった状態をいい,単に身長あたりの体重が大きいことをいうのではない。体脂肪量は皮脂厚計,超音波測定装置,水中体重法などで測るが,いずれも一長一短で真の肥満度を測ることは不可能に近い。文部省学校保健統計では年齢別の身長別標準体重の120%以上を肥満傾向児としている。1992年の調査では6歳児で4%の出現率を見ている。ヨーロッパ系集団では体脂肪率(体重当りの脂肪量)に影響を及ぼす遺伝と文化要因の割合は25%と30%くらいである。6歳以後に極端な肥満傾向児は大人になってもその傾向が続く。
標準成長曲線,ひょうじゅんせいちょうきょくせん,national standard of growth curve
大規模な調査による日本人の成長曲線としては,10年ごとに行われている0から6歳児を対象にした乳幼児身体発育調査(厚生省)での身長,体重,胸囲,頭囲のパーセンタイル曲線がある。成長曲線としては発表されてないが,毎年おこなわれている5〜17歳児を対象にした学校保健統計調査(文部省)での身長,体重,胸囲,座高;18〜29歳を含む体力・運動能力調査(文部省)がある。後二者の平均値と標準偏差から標準成長曲線を描くことができる。
平滑化,へいかつか,smoothing of growth curve
−−>成長曲線
ボディマスインデックス,ぼでぃますいんでっくす,body mass index
太り具合・やせ具合を表す,身長と体重から計算される示数のひとつ。体重(kg)÷身長(cm)2で計算される。BMIと略される。カウプ示数とも呼ぶ。ボディマスインデックスの平均値は1歳から6歳のあいだはほぼ一定であるため,同じ基準値を判定に使えるため,小児科で肥満の判定のためによく使われる。−−>カウプ示数BMI
未熟児,みじゅくじ,premature infant
−−>低出生体重児
リンパ型,りんぱがた,lymphoid type of growth
−−>Scammonの成長パターン
暦年齢,れきねんれい,chronological age
出生あるいは受精を起点に,ある生物が任意のある特定の時期までに生きてきた時間。年を単位とするとは限らない。古くは太陽の運行に基づいて秒を定義した(天文時計)が,現在では秒をセシウム原子の状態変化にもとづいて定義(原子時計,物理時計)している。生理学的年齢の項も見よ。
ローレル示数,ろーれるしすう,Rohrer's index
太り具合・やせ具合を表す,身長と体重から計算される示数のひとつ。体重(kg)÷身長(cm)3で計算される。ローレル示数の平均値は生後急速に減少するが,7歳ころから思春期にはいる前までは,ほぼ一定である。このため,少年期についてはボディマスインデックスよりも扱いやすいとされている。